ゲーマー日日新聞

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【評価/感想/レビュー】なぜ『JUDGE EYES:死神の遺言』でキムタクがエスカレーターを逆走するだけで感動するのか

『JUDGE EYES』とはどういうゲームか?

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キムタクがかっこいいゲームです。

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キムタクがカンフーするゲームです。

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キムタクがエスカレーターを逆走するゲームです。

 

要はキムタクで遊べるゲームです。

と、これで終わっても仕方ないので、何故このゲームでキムタクにエスカレーターを逆走させるのがこんなに楽しいのか、説明させてほしい。

 

 

『JUDGE EYES:死神の遺言』はセガの名越稔洋らが開発したリーガルサスペンスアクションだ。

敏腕すぎて連続殺人犯まで無罪にしてしまった敏腕弁護士「八神」。彼はその過去から逃れるよう東京の神室町で探偵事務所を経営している。しかし彼の元に再び連続殺人事件関係の依頼が舞い込み、再び彼は正義と犯罪の世界へ戻ることとなる。

そしてこの八神という男に、他ならぬ木村拓哉をキャストしている点こそ、本作『JUDGE EYES』の核心だ。

さて、この核心を語るには、まず名越稔洋の作った『龍が如く』というサーガの革新性について語らねばならないだろう。

 

ヤクザでなくヤクザ文化を体験する『龍が如く』

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『龍が如く』は2005年PS2向けにセガが発売した、ヤクザの桐生一馬を主人公に描くアクションゲームだ。

とはいえ『龍が如く』が偉大なのは、単にヤクザが登場するからではない。60年代から東映らが築き上げ今も進化を続ける「ヤクザ映画」という一大映画文化を、ビデオゲームのプラットフォームで見事に再現した点こそ、『龍が如く』成功の秘訣だった。

仮に、ただヤクザを登場させるだけならば、刑事など親しみやすい市民の味方を主人公にし一方的にヤクザと戦えばわかりやすい。

だが、初代『龍が如く』がやったことは、まず主人公を刑務所から出所させることだった。これまで敵に捕まった場所から脱出して始まるゲームは数あれど、公的に自らの罪を清算して出所して始まるゲームなどそうはなかったはずだ。*1

その上、極道の主人公が兄弟の盃を交わした同じ極道と戦う葛藤や、平然と仲間の命が失われていく悲しみを描く『龍が如く』は、ゲームがオギャーと生まれる遥か昔から日本人に愛されてきた「任侠映画」に対する、強い敬意と見事な模倣から生まれたものだった。

後に名越は、『龍が如く』製作の上で表現規制との戦いをずっと続けたと話す。まだ些細な暴力表現も規制の対象となる時代、彼は表現を「誤魔化さずに描く」ことこそが裏社会をテーマに作品を作る責任だと考え、これを貫いた。

その名越の不屈の精神こそが、『龍が如く』を単なるゲームから、他ならぬ任侠ゲームとしてのリアリティを根付かせたのだった。*2

 

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そして、この「任侠ゲーム」として最も完成された傑作こそ、2015年発売『龍が如く0 誓いの場所』だと筆者は考えている。

作中でも人気のある桐生一馬と真島吾朗のルーツを描く作品でありながら、この『0』が挑んだ舞台は90年代バブルの日本。つまり極道と任侠映画の最盛期に挑んだ『龍が如く』なのである。

そのために、小沢仁志竹内力中野英雄鶴見辰吾、いずれも主に「Vシネ」*3全盛時代に活躍したスターを名越は用意した。

無論、名越もただ金を出して演者を揃えただけではない。その演出、脚本、演技、あらゆる文法においてVシネを踏襲しつつも、彼らスターとの戦いを通して桐生や真島が人間として成長していく、いわば古き映画と新しきゲームのバトンタッチの憧憬が籠められた作品でもあったのだ。

最序盤のあるシーン、ただ事務所のソファーに座っているだけで、どんな高精度なモデリングでも再現できない、竹内力らの野獣的なオーラに「一体どうすれば彼らを倒せるのか」と圧倒されたプレイヤーも少なくないだろう。真島編の最後にてタバコを差し出した鶴見辰吾の男気に泣いたプレイヤーもいるだろう。

『龍が如く0』は日本で愛され続けた任侠映画への敬意をそのままクリエイティビティに反映させ、あの世界を体験させるコンテンツを作った。これは日本のゲームにおいて、殆ど成し遂げられなかった仕事だと私は考えている。

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いくら何でも怖すぎだろ

 

日本ポップカルチャーの象徴たるキムタクを操作する喜び

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話を戻そう。『JUDGE EYES』だ。

木村拓哉主演の『JUDGE EYES』は原理的に『龍が如く0』にとても近い。つまり、既存の映像文化をゲームプレイとして実現するために、直接「向こう側」の俳優を連れてきてしまう手法だ。

無論、『0』がそうだったように単に金で引っ張っただけでない。方法論としてキムタクを活用する。一見して軽薄で情に厚く知性ある人格、端麗ながらも個性的な表情、我々の知るキムタクが完璧に再現されている。セガの開発チームはキムタクを研究し尽くしたことがうかがえる出来栄えだ。

正しく『JUDGE EYES』はキムタクのためのゲームだ。「キムタク」を見て、操作して、共感するゲームなのだ。

 

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しかし、そもそもキムタクとは何だろうか。

ジャニーズ事務所のSMAPとして鮮烈に輝き、『HERO』や『GOOD LUCK!!』等のドラマで俳優として唯一無二の活躍をしたキムタクは、平成日本のポップカルチャーの象徴そのものだ。だが同時にその背景には、キムタクが話す台詞を用意する脚本家が控え、キムタクに光を当てる演出家が存在した。

つまりキムタクとは、木村拓哉にバラエティ、ドラマ、音楽、あらゆるコンテンツが加わって形成された、圧倒的な質量のコンテンツそのものなのである。

だからこそ、木村拓哉を連れてくるだけでは「キムタク」は生まれない。木村拓哉を支えている、日本のポップカルチャーに通ずる文脈が「キムタク」には必要だからだ。

『JUDGE EYES』の偉業は正しくここにある。

『JUDGE EYES』は、木村拓哉をちゃんと「キムタク」にしたのだ。1000分収録に費やしたキムタクの台詞、ニヒルで掴み所のないキムタクの表情、ややハードボイルドアメカジなキムタクの衣装。

『JUDGE EYES』のキムタクは、『ビューティフルライフ』の沖島柊二や、『HERO』の久利生公平、『華麗なる一族』の万俵鉄平、20代~30代の記憶に残るあのキムタクそのものだ。

そしてYahooトレンドに「木村拓哉」でも「JUDGE EYES」でもなく、「キムタク」が1位にランクインしたことは、実際にプレイした人間が画面の中のあるモデルを「キムタク」と認めた証左である。

news.livedoor.com

そしてそのキムタクを実際に操作できる感動は筆舌に尽くしがたい。平成のお茶の間で日本中から応援された男が、今自分のコントローラーで動いてくれる。木村拓哉はインタビューで「オレを好き放題動かしてください」と語った。彼自身もその完成度を認めていることだろう。

キムタクでエスカレーターを逆走する感動。それは平成日本のポップカルチャーに、ゲームというインタラクティブなメディアにも根付いた感動なのである。

www.youtube.com「自分は100でぶつかるしかなかった」木村拓哉

 

伸び代はあるが凄まじい意欲作

ただしビデオゲームとして見ると物足りない部分は感じる。

アクションゲームとしては、『龍が如く』をよりシンプルかつ奥深く進歩させたように感じられるが、問題は主人公を探偵にする上で、新たに『JUDGE EYES』に導入された「探偵アクション」だ。

本作の主人公八神は探偵として様々な仕事を請け負う。浮気現場の証拠として写真を盗撮したり、ヤクザの事務所にこっそり忍び込んだりだ。

その過程で種々ミニゲームが用意されているのだが、壊滅的にこれがつまらない。『The Elder Scroll』でやった「鍵開けゲーム」や、『The Witcher 3』で見た「証拠探しゲーム」、『アサシンクリード』の定番「ストーカーゲーム」など。

どれも元々面白くもなんともないミニゲームを、その上劣化させて導入させているのが大変苦しい。しかもバカみたいに数が多く、ただヤクザの事務所を散策するだけで5回ぐらいピッキングし、しかも最終的には必ず敵に見つかってしまう。もう桐生みたいに正面から素手で殴り込もう。

何よりの問題は、先述した「キムタク」を操作する喜びが、この探偵アクションから微塵も感じないことだ。鍵を開けるのはキムタクでなくともタマネギファンボーイでもいいのである。

ますます、ハッキングの類のミニゲームを全てスキップ可能という寛容なオプションを搭載し、スパイダーマンとしての活躍だけを十全に楽しませたPS4『Spider-Man』の判断は、正しかったと思う。

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とりあえずピッキングさせるの、正直悪癖だと思う。一種のクリシェ。

 

いずれにせよ、名越率いるセガ開発チームはまたしても、新たなゲームの可能性を実現した。

これまで欧米では、戦争映画を元にした『Call of Duty』やウェスタンを再現する『Red Dead Redemption』等、映像や音楽を含めた既存のカルチャーをビデオゲームの中に搭載する試みは数多くあった。

しかし、 日本では未だ既存の文化とビデオゲーム文化は距離があると感じる。その原因は色々あるにせよ、そんな中で、名越とセガは任侠カルチャーに絞りながらも、日本のカルチャーをビデオゲームに取り込み続けてきた。

そして今、彼はついに日本のポップを代表する存在のキムタクを、見事ゲームにしてみせた。次回彼がどんなゲームを作るのか、楽しみでならない。

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*1:無論、これは桐生が罪を肩代わりしたのだが

*2:もう一つ重要なのは企業とタイアップしたポップの数々。

*3:「東映Vシネマ」の略で、映画不況時代に作られたレンタル専門のVHS。ヤクザ中心の映画が主流だったが、後のスターとなる役者や監督を無数に誕生させた。