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ゲーマー日日新聞

ゲームという文化を、レビュー、攻略、考察、オピニオン、産業論、海外記事の翻訳など、複数の視点で考えるブログ。

【評価】『Spintires』の感想やレビュー 至高の「共産党シミュ」

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『Spintires』をプレイした。

最初は雰囲気だけで買ったゲームだけど、規模によらない魅力があったので紹介。

本作の魅力、と言うとまず美しいグラフィック、そして共産主義的な「労働」のみ追求した純粋かつユニークなゲーム性にあると思う。

並みの「シム」を一蹴するリアルさ

 

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本作の目的は、トラックにありったけの木材を搭載し、マップの端から端へと届けること、ただそれだけである。

ただし、マップの大半は未舗装であり、泥濘んだ道路が車両の足を掬う。そこで、ウィンチやレッカー車を用いて、少しずつ前進することになる。

それでも、道中にRPGを持った敵兵が現れることもなければ、イベントで嵐が吹き荒れることもない。愚直に1メートルずつ進んでいけば、だれでも攻略できる算段だ。

だが、本作の達成感は並みのアクションゲームの上を行く。泥がタイヤに食い込んでも、ウィンチを針葉樹にくくりつけて強引に進む様は、まさに「労働」しているようだ。



そして、本作で特に優れているのが、世界観への拘りだ。

まず土地の質感が素晴らしい。マップの大半が淡白なロシアの森林だが、適度に舗装されていたり、既にトラックが通ったらしき轍が残っていたりと、多様な景観が残っており、中々飽きさせない。

その上、道中には河川や水たまりが多く残っていて、まるで黒澤明の『デルス・ウザーラ』のように、雪解けしたばかりの、春のロシアの土地が再現されている。

特に、本作の水はいかにも「泥水」といった具合に濁っていて、それをトラックで踏みつけた時に舞い散る泥の飛沫を観れば、「これぞ最果ての土地だ!シベリアだ!」と言わんばかりに感動するだろう。

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自然環境のリアルさに加え、主役となるトラックもかなりリアルだ。

使用するトラックの大半は、実際にソビエト連邦共産党によって活用されたトラックで、中にはソ連陸軍の兵員輸送車(URAL-4320)やジープ(UAZ-469)もあり、ミリタリーマニアの方も思わずニヤリと笑える。

それでもって、トラックが実際に轟々とエンジン音を鳴らして進む姿も凄まじい。排気筒からは真っ黒な排ガスが吹き出し、今にも壊れそうにガタガタと全身を揺らして悪路を進む姿は、正に「男のロマン」。

別にトラックに興味が無い方でも、本作のトラックの挙動を観ていただければ、すぐさまyoutubeで「Russian Truck」と検索するほどに魅力を感じてくれるだろう。


共産主義シミュレーター」として

 

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このように、既に本作が「トラックゲー」という異色のジャンルの中で、更に異彩を放つ作品であることは理解して頂けたと思う。

だが、本作の真の魅力は、むしろ無報酬・脱階級にって実現した純粋な労働を引き出す「共産党ゲー」という点に尽きる。



どういうことか説明すると、本作にはまず「報酬」はない。

マップを散策すれば多少の車両は追加されるが、肝心の「木材を現地まで輸送する」という目標をクリアしても、お金がもらえたり、車両がアンロックされたり、美少女の可憐な姿を拝めるわけではない。

オフラインなら次のマップが無言でアンロックされるか、マルチプレイヤーなら現地解散して終了である。(一応申し訳程度の実績はある)

これは、現代において何でもかんでも「XP」や「マネー」を与えて、プレイヤーを満足させるゲームとくらべても、異色の作風であるといえる。

また、「上司(資本家・労働士官)」もいない。

上から目線で、「次は○○しろ」「次は××を倒せ」と命令されたり、「アメリカのために働け」と言ってイデオロギーに巻き込まれることもない。

それどころか、本作には登場人物は一人として登場せず、従ってストーリーも全くない。プレイヤーはただ木材を端から端まで運ぶのみである。

 

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この特徴は、マルチプレイヤーにおいて一層強調される。

まず、マルチプレイヤーにおいて私有財産という概念はない。

アンロックされた車両はプレイヤー全員の共有財産であり、また誰かが新しく基地を開放しても、全員がその基地を使用できてしまう。

更に、マルチプレイヤーで何か入手しても、オフラインに引き継ぐことは一切出来ない。仮に木材を目標地点まで運びかけても、ホストが解散すればその進行状況は誰のPCにも保存されない。

何という淡白な措置であろう。あまりに淡白すぎて、私は一瞬「手抜き」ではないかと疑った程だが、これは恐らくクリエイターにとって正しい調整なのだと、遊んでいくうちに確信した。

実際、ガス欠のプレイヤーを補給出来たり、スタックした他人のトラックをウィンチで救出したりと、COOP用のアクションは多数用意されていて、本作の醍醐味はむしろマルチプレイヤーに見いだせたほどである。

「自然」という困難に立ち向かい、泥臭くウィンチで引っ張り合ったり、知恵をこらしたりして目標地点まで輸送する…。フレンドと遊べば、間違いなく盛り上がることだろう。

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では何故、ここまで淡白な調整をしたのか。

それは本作が「共産主義シミュレーター」として、純粋な「労働」の美しさ、面白さを強調しようとしたからではないか。

ここには上司も、大義もなく、金銭を必死にかき集めて、ゲーム部分を作業的にこなすなんて愚かなことはない。

誰かを恨むことも、誰かとの競争に必死になることなく、ただ働きたいだけ働き、意味もなく泥まみれになって夕暮れを迎える。時に静かな湖畔に立ち止まり、またはディーゼルエンジンの低音に胸を躍らせる。そんな「純粋な労働」にある面白さこそ、本作の醍醐味ではないだろうか。

この点が、同じトラックゲーでありながら、金銭や契約時間に対する経営的面白さを含んだ『Euro Track Simulator 2』と、最も異なる点であると思う。

最も、開発は事前に「スキルポイント」の実装を仄めかしており、必ずしも純粋な「共産主義ゲー」とは限らないかもしれないが。(最も、オマケ程度に車両を実装するだけらしいので、本作の魅力に大きな影響はないだろう)