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ゲーマー日日新聞

ゲームという文化を、レビュー、攻略、考察、オピニオン、産業論、海外記事の翻訳など、複数の視点で考えるブログ。

映画『キャプテン・フィリップス』 感想

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綿密に計算された模写と、そこから描かれる革新的なリアリズムが素晴らしい映画でした。


この映画は「敵にも同情してるし、アメリカ万歳でもないから、中立でしょ!リアルでしょ!」という、最近ありがちな映画ではありません。

驚くほど冷徹で、それでいてアメリカが向き合っている国際関係の本質をついた映画になっています。

そして何より「ソマリアの海賊問題」というテーマを描き出す、強いメッセージ性と先進性にも富んだ映画でもありました。


この圧倒的なリアリズムとメッセージ性は、元々ドキュメンタリーを手がけていた監、のポール・グリーングラスならではといえます。

 

怖くて、若くて、バカで、無力な「ソマリア海賊」

 

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1つ目に、海賊たちの演技は本当に素晴らしいです。
ソマリア人である彼らは、豊かなアメリカへの憧れと怒りから、アメリカ人を拉致することを躊躇しない悪意を持ちながらも、
一方で喉の渇きを訴えるフィリップに対して水を与える良心も持ちます。

しかし、海賊はただの「実はいいヤツだった悪役」ではありません。彼らはただ、純粋で無知なのです。幼稚さとも言えるでしょう。

劇中に登場する海賊のリーダーは長身で、強気にフィリップたちに迫ります。見てる観客にまで、冷や汗をかくほどの演技です。

しかし物語が進むにつれ、主人公に自分がアメリカに移住する夢があることを打ち明けたり、軍隊に取り囲まれたときにパニックに陥る弱さを持ちます。

とりわけ、海賊のリーダーがフィリップに、自分がアメリカへ移住する計画を語るシーンは、彼らの無知さを示す印象的なシーンでしょう。

彼は「お前の身代金でアメリカに移住して、職を見つけて、アメ車を乗り回すんだぜ」と無邪気に語ります。

 

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しかし、それは現実のアメリカの姿とは全く異なるものです。

現実のアメリカは、序盤にフィリップが妻に話すように、白人さえも失業の不安に怯え、若者は進学や就職に駆り立てられる厳しい国です。

その一方、海賊はアメリカを、貧しい黒人でもチャンスが与えられる享楽的な国、まるで50年代のアメリカンドリームのような姿を思い描いていたのです。

海賊という残酷な行為に出る彼らの正体が、敵でも味方でもなく、ただ狭い世界で育ってきた幼い子どもにすぎないことがわかります。

このシーンでは我々日本人よりも、むしろアメリカの実情を知る、現地のアメリカ人の方が胸を打たれたのではないでしょうか。

海賊のリーダーの夢を聞くフィリップの顔も、少なからず動揺を隠していません。(この絶妙な演技がトム・ハンクスの実力ですね)

序盤に登場するフィリップの元で働く船員もまた、薄給で雇われた中等や南米の移民が多いだけに、尚更彼の話を聞いて動揺するのでしょう。




怖くて、システムで、合理的な、強い「アメリカ」

 

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2つ目の魅力は、「第三勢力」としての米軍の存在と、最後のトムハンクスによる絶叫するシーンです。

この映画では米軍は、フィリップを助けても、純粋にフィリップの仲間や友人としては描かれていません。

例えば、海賊たちの無邪気な話を聞く一方で、米軍に救援メッセージを送った時には、彼らに軽くあしらわれて絶望するうちに、
フィリップにとって、米軍が絶対的な「味方」でもなければ、海賊が絶対的な「敵」でもなくなり、その狭間で苦しみます。

米軍がフィリップに「じっとしているように」言われても、自力で脱出しようとしたり、海賊の眼を盗んで手紙を書いたり等、非効率的な行動をとるのはこの苦しみのためかもしれません。

そして米軍は、仲間でも敵でもない、ただ機能をこなすための「システム」として登場します。

この「機能」としての強大さを表すのは、映画の目玉としても取り上げられた、米軍の駆逐艦が救援ボートを取り囲むシーンです。駆逐艦はボートの何倍もの大きさで、巨人が踏み潰そうとするような威圧感を与えます。

 

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フィリップと海賊という「人間」が、アメリカ軍という「機能」を前にした時、人間は逃げることすら許されない。それほどの力の差をトコトン見せられます。

ここで表現されているのは、映画の序盤で繰り広げられた、ソマリア人とアメリカ人が出会い、会話し、生き残るための戦いを繰り広げていても、映画の後半で登場するアメリカというシステムの前では、所詮ママゴトのようなものに過ぎず、我々「人間」は圧殺される他ないということです。

フィリップの最後の絶叫シーンは、ただ自分が生き残った喜びを叫んでいるのではなく、国家という「組織」を前にして、海賊を含めた我々「人間」が踏み潰される恐怖に震撼しているのだと、私は感じました。

 

本来なら安心するはずのシーンは、トム・ハンクスの演技と巧妙な脚本により、一転して真の恐怖を人々に与えるようです。

 

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テロの脅威に怯える現代だからこそ観て欲しい、現代戦を克明に描いた名作だと思います。