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ゲーマー日日新聞

ゲームという文化を、レビュー、攻略、考察、オピニオン、産業論、海外記事の翻訳など、複数の視点で考えるブログ。

【第ニ回】To the Narrative -ブロント ゲーマーの一般意志

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To the Narrative


今日まで我々を愛するゲームは、いかに成立したのか。その背景には常に、幾多のゲーマーによる献身がありました。

ゲーマー日日新聞の連載企画、『To the Narrative』では、ゲームへ貢献した功労者たちの素顔へ迫ります。

 


匿名のナイト

 

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今回紹介する人物、「ブロント」とは何者か、知る者は少ない。

何故なら、彼は匿名掲示板の2ちゃんねるの、ゲームを扱うスレッドで出没した「荒らし」だからだ。当然、身元を証明することは出来ない。

では、そんな「荒らし」の何がゲームに貢献したのか。

それは、彼が残した独特の言語、いわゆる「ブロント語」が多くのゲーマーを笑わせ、ネット上の対立を緩和してくれたためである。


ナイトと忍者のLS信頼度は違いすぎた

1 名前:既にその名前は使われています 投稿日:2005/04/28(木) 11:25:42 B9zsO3y1
「やはり忍者よりナイトの方が頼りにされていたキングベヒーもスとの戦いで
おれは集合時間に遅れてしまったんだがちょうどわきはじめたみたいでなんとか耐えているみたいだった
おれはジュノにいたので急いだところがアワレにも忍者がくずれそうになっているっぽいのがLS会話で叫んでいた
どうやら忍者がたよりないらしく「はやくきて~はやくきて~」と泣き叫んでいるLSメンバーのために俺はとんずらを使って普通ならまだ付かない時間できょうきょ参戦すると
「もうついたのか!」「はやい!」「きた!盾きた!」「メイン盾きた!」「これで勝つる!」と大歓迎状態だった忍者はアワレにも盾の役目を果たせず死んでいた近くですばやくフラッシュを使い盾をした
忍者から裏テルで「勝ったと思うなよ・・・」ときたがLSメンバーがどっちの見方だかは一瞬でわからないみたいだった
「もう勝負ついてるから」というと黙ったので戦士サポ忍の後ろに回り不意だまスフィストを打つと何回かしてたらキングベヒんもスは倒された
「ナイトのおかげだ」「助かった、終わったと思ったよ」と忍者を行き帰らせるのも忘れてメンバーがおれのまわりに集まってきた忘れられてる忍者がかわいそうだった
普通なら裏テルのことで無視する人がぜいいんだろうがおれは無視できなかったみんなとよrこびほめられたかったのでレイズを唱えてやったらそうとう自分の裏テルが恥ずかしかったのかHPに帰って行った」



いかがだろう。仮にあなたが『FF11』のプレイヤーでなくとも、この文章にある独特の奇妙さと中毒性は、認めるところではないだろうか?

少なくとも、この文章は『FF11』に留まらず、様々なオンラインゲームに拡散され、各地で彼のファンとなる者が跡を絶たず、オンラインゲーマーの代表的なネットスラングとして用いられていた。(いわゆる「コピペ」をたくさん作った人である)

 

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が、繰り返すように、彼の正体は結局わかっていない。名前もファンが勝手にゲーム内の人物から借用したもので、信憑性は低い。

とすると、結局「ブロント」なる人物は最初からいなかったとみるのが妥当だろう。

恐らく、最初に「こんな荒らしがいたら面白いな」と考えた人物が、「ブロント語」を掲示板に書き込み、また別の人間がその文体を真似して、次々に拡散されていったのだろう。

少しロマンのない話だが、「匿名掲示板」における人物の実在性を追求すること自体、矛盾したことのような気がする。


熱狂の風刺

 

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では、「ブロント語」は何故これほど面白く、人々に愛されたのだろうか。

それは恐らく、オンラインゲームという共通の話題を囲う大衆の「熱狂」を、ブロントが体現していたためだと思う。

例えば、彼自身の言動に強く表れているのは、自分のデータへの擁護。とりわけ、「ナイト」というジョブや、「グラットンソード」というアイテムの自慢である。



まず、『FF11』を知らない方に説明すると、『FF11』はオンラインのRPGで、プレイヤーは全22種類のジョブから1つ選んで習得することが出来る。

しかし、キャラクター1人につき、ジョブは基本1つだけなので、そのジョブはキャラクターのアイデンティティそのものとなる。

プレイヤーは何百時間ものプレイ時間を、そのジョブを育てるため、そのジョブの装備を得るために費やし、仲間との共闘でも常に自分のジョブに出来ることだけ考え続けなければならないからだ。

故に、多くプレイヤーは、仮想社会における自分のジョブに誇りにし、中には他人のジョブを貶したり、差別する者さえいる。

 

元々、『FF11』はプレイヤーの協力が必須な高難度のゲームなので、火力や効率性によって、ジョブ同士の立場に格差が生じていたためでもある。

 

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このように、「ジョブ」はプレイヤーにとって最大の存在意義であり、『FF11』の醍醐味は、そのアイデンティティを存分に発揮できる協力プレイにある。

「自分」という人間が、ゲーム内の広大な社会の中で相対的に注目され、価値が付与される。これは、オンラインゲームでしか味わえない経験だ。

一方、この仮想社会に囚われるがあまり、行き過ぎた自己愛や、ジョブへの執着といった「熱狂」は、オンラインゲームにおける表裏一体の欠点とも言える。

そもそも、『FF11』に限らず、『モンハン』『LoL』、どのゲームでも、特定の武器やジョブへの差別は存在する。役割を分担し、共同して作業する以上、衝突は避けられないのだ。

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だが、そんな背景を理解した上で、改めて「ブロントさん」の名言に目を通すと、彼の姿は実に滑稽に映るだろう。

彼は幼児のように必死で「ナイト」というジョブを擁護し、レア装備の「グラットンソード」を自慢し、「忍者」というジョブへ罵詈雑言を浴びせている。

これは正に、オンラインゲームの廃人たちならではの「熱狂」。自分の時間を何千時間とゲームにつぎ込むからこその「熱狂」そのものだ。

だからこそ、ブロントさんを頭ごなしに馬鹿にできるゲーマーは少ない。むしろ、何かオンラインゲームを遊んだ者なら、誰もが少しは「あのジョブ・キャラさえいなければ…」と、黒い欲望を抱いたことがあるはず。

そんな「熱狂」に共感する者だからこそ、滑稽なまでに誰よりもゲームに熱狂するブロントさんを見て、安心して「ネトゲ廃人乙ww」と爆笑出来るのだ。

つまるところ、ブロントさんとは、廃人ゲーマーが特定のゲームに熱狂し、あまつさえお互い憎んでしまう様子を、ゲーマー自らの手で描いた、風刺そのものではないだろうか。

オンラインゲームという多元的な世界に、匿名掲示板というメディアが組み合わさった時生まれた、ゲーマーの洒落た良心。それが「ブロントさん」だと私は思う。



対立の進むゲーム業界と、ブロントさんが表した一般意志

 

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言わずもがな、文化とは、様々な価値観が生まれる世界である。

オンラインゲームはおろか、ゲーム業界全般を見ても、洋ゲーだから、和ゲーだから、PS3だから、Xbox360だから…と対立し、映画や音楽、小説においても趣向の違いで対立することが多い。

個人の好みが生まれる文化と、ネットというソーシャルな場が出会えば、醜い言葉の応酬が始まるのは、もう必然なのかもしれない。



そんな対立にうんざりした時、今から10年前に現れた、「謙虚なナイト」、ブロントさんを思い出して欲しい。

彼は何も、規律を守る調停者ではないし、愛と平和を説く説教師でもない。

むしろ率先して独自の言語センスを用いて、愉快ながらも「熱狂」を鋭く再現した、大変高度な「風刺作品」を残したナイトだった。

それと同時に、彼は熱に浮かされたゲーマーたちの醜い対立さえ、風刺という形の娯楽にしてしまった。

ブロントさんとは、あらゆるゲーマーがジョブや格差を乗り越えて共感し、一緒に爆笑できる、「一般意志」だったのだ。

かつて、多くのオンラインゲームでは、議論が紛糾すると、誰かがブロント語で茶化したものである。

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現代では、大規模オンラインゲームの衰退や、SNSの普及も相まって、より個人化が進みつつあり、ゲーマー同士の亀裂は一層深まっているように思える。

そんな時、謙虚なナイトがカカッっと現れ、「お前それでいいのか?」とグラットンスフィウトで議論をバラバラに引き裂いてくれたら…。

我々を笑わせ、同時に反省させた、ブロントさんは、いや、ブロントさんになりすました匿名の賢者たちは、今でも私にとってかけがえのないゲーマーなのだ。

 

 

参考文献

「ブロント/FF11用語辞典」http://wiki.ffo.jp/html/4005.html

「ブロントさん名言集」http://www.geocities.jp/burontosan/

 

ブロントさんの経歴

匿名のため、存在しない。