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ゲーマー日日新聞

ゲームという文化を、レビュー、攻略、考察、オピニオン、産業論、海外記事の翻訳など、複数の視点で考えるブログ。

【評価】『Alan Wake: Americans Nightmare』の感想やレビュー 想像力の深淵

ゲームレビュー

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開発:Remedy Entertainment

対応:Xbox 360/Steam

発売日:2012年2月22日

ジャンル:ホラーTPS

 

ゲーム概要

Remedy Entertainmentによって開発されたホラーTPS、『Alan Wake』の追加コンテンツ。

前作で闇に囚われたアランが、無限ループのアリゾナ州から脱出するという、SFらしい展開を見せる。

※『American's Nightmare』のネタバレは避けています。(本編のネタバレは含みます)

 

真のホラー

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前作『Alan Wake』は一見すると、ホラーゲームである。弾薬はカツカツで、主人公の体力も少ない。

だが、以前紹介したように、そのホラーは所詮『Alan Wake』に眠る狂気の一部でしかない。

何故なら、「闇を倒し、妻アリスを救う」という大筋は、主人公のアランが自分で作った小説に過ぎないからだ。

故に、『Alan Wake』におけるホラーとは、作家のアランが自ら小説の世界へ飛び込み、全てを都合よく変化させてしまうというSF的なパラダイムと、その作家ならではの苦悩や葛藤に遠因するもので、直接的な恐怖ではない。

むしろ、その「創作の理不尽さ」を演出するため、『Alan Wake』には常に親切な登場人物が現れ、何もかも都合よく描くことで、ホラーとしての面白さを意図的にスポイルしていた面が強い。

 

一方、本作『Alan Wake: American's Nightmare』ではどのように仕上がっているのか。ここで、あらすじを説明しよう。

前作で、アランは小説「Departure」を完成させることが出来た。しかし、そのために自分自身の精神をすり減らし、もう一つの人格、「Mr Scratch」を生み出してしまう。

それから数年後、アランはMr Scratch(ゼインは悪意のアランと評する)によって怪奇番組「Night Springs」の中に閉じ込められてしまい、そこから主人公の「理性のアラン」は脱出を試みる、というのが本作の主題だ。

 

さて、ここで前作との決定的な違いが浮き彫りとなる。

まず第一に、前作のトリックだった「主人公=作家」という癒着は奪われ、むしろ「主人公VS作家」という絶縁状態にあること。

第二に、前作におけるアランが、「闇が襲ってくるぅうう」と、自分で作って作品を用意しておきながら白々しく被害者を装っていたのに対し、本作では開幕から「これ作ったの俺(Mr Scratch)なんだよね」と、自らぶっちゃけている点だ。

 

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要するに、前作が「作家が権威を振りかざし、都合よく世界を捏造した」ことで理不尽を描いたのに対し、本作は「作家と主人公が決裂し、作家自ら主人公を襲う」ことの理不尽さを描いた作品なのである。

なので、実は本作の方が、よっぽどホラーらしい作品となっており、前作において、世界の秘密を理解するヒントだった原稿やテレビも、本作では、ただ作家の嘲りと憎悪に満ちたものになっていて、プレイヤーはますます混乱し、恐怖する。

 

それはゲーム全体の構造も同じで、前作のマップが作者が誘導するような獣道だったのに対し、本作のマップはどう進んでいいかわからない不毛な砂漠だったり、前作では予定調和的に用意された回復スポットの街頭が、本作では軒並み割られていたるなど、ゲームデザインの形でも恐怖感が遺憾なく発揮されている。

 

ホラーゲームに見出す、作家の精神

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と、ホラー要素は満点なのに、何故かゲームそのものはめちゃくちゃぬるい。そして、この点は大手レビュー誌にも批判されている。

まず、前作では「主人公は作家です」という体裁のため、まともな火器は登場させられず、従って難易度も高かった。

しかし、「作家=主人公」の真実が暴かれた本作では、主人公は最初から自動拳銃を装備し、最後はアサルトライフルをぶっ放す。

しかも、ゲームは途中でループするので、プレイヤーはマップもパターンも覚えてしまい、装備的にも攻略的にも、むしろ後半になるほど簡単になっていくのだ。

 

何故か。それは恐らく、このゲームはアランの内なる葛藤を描いた作品、つまりベストセラー作家というプレッシャーに克服しようとするアランが、葛藤を重ねることで己の理性を回復しているからだろう。

そう、この一見不可解なレベルデザイン、下り坂の難易度曲線は、ゲームがゆるくなったのでなく、アランが強くなったのだと、「ゲームを作っているのは実はアラン」という前作からの設定を流用して描いているのである。

例えば、プレイヤーは何度も何度も、「闇の住人」の存在と戦う。それはもう、くどいほどに。ライトを当て、ショットガンをぶちこむ。敵側もより強力な「闇の住人」をけしかけるが、マップを覚えたプレイヤーにとって、敵ではない。

このように、本作は意図的に難易度曲線を下げるつつ、恐怖や環境は前作よりもハードなものとすることで、「いかなる恐怖に屈しないアラン」を体験させることに成功している。

 

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しかし、ゲームプレイそのものは簡単なものとなっても、本作の抱く恐怖は一層深まっていく。

例えば、強力な武器を手に入れるには「原稿を30枚集めてアンロック」というアンロックを介するのだが、肝心の「原稿」の内容は、前作のような「ホラー小説」による公式ネタバレではなく、アラン本人の人生観を描いた、正真正銘「純文学」である。

 

「俺はアランウェイク、作家だ。一夜にしてデビューを飾ったわけではない。あちこちに短編や記事を書き散らす下積みを経て、ようやく幸運が巡ってきた。(中略)目指していた路線とは違ったが、おかげで俺は自制心や執筆技能、そして作家を志すことと実際に書くことの違いを学んだ。」

 

また、本作のホラーたる根拠として、定期的に登場する「ラジオ」の存在が挙げられる。これらは、この世界の外、つまり作家アランのいる現実世界に、何が起きているか伝えてるのだが…

 

「さぁ、アリス・ウェイクさんとのインタビューを聞いてくれ」

「先ほど、ご主人アラン・ウェイクさんの話が出ましたが、やはりお辛い?」

アリス「もちろん。良いときも悪いときもありましたけど私は幸せでした」

(中略)

「ウェイク氏には色んな噂がありますが、その、かなり奔放といいますか」

アリス「あれは行き過ぎです。事実無根の噂が一人歩きしてるんです」

 

このように、ラジオからはアランが前作で狂気に陥った後も、皆が頑張っている様子が伝わってくる。プレイヤーにも馴染み深い前作の人物が、自分を置き去りにして行く恐怖がジワジワと流れ出ているのである。

 

このように、本作は先の見えないゲームプレイ、逆転したメタフィクション構造、仲間から孤立する脚本と、真のホラーゲームとして前作から修正しつつ、この恐怖体験によって、プレイヤーに一人の作家の精神を理解させ、純文学の如き重厚な葛藤も味わうという、あらゆる側面において完成された作品だと思う。

 

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さて、前作にはまだ「娯楽」としての余裕があった。スリルある冒険、愉快な登場人物、具体的な目標、作品の本当の主を知ったときの、ミステリー小説的な快楽。

だが、この『American's Nightmare』では、恐怖しかない。同じ世界をぐるぐる回り、目的も大儀もない。当然、ネタバレ原稿も、本当の主もいない。アリスもバリーも、誰も手を差し伸べない。

しかし、前作でプレイヤーを楽しませた「登場人物と作家」のメタフィクションと、「ホラーゲーム」としての環境やレベルデザインを通じて、自分自身の弱さと戦う恐怖と勇気を描く、内在的ゲーム体験を完成させている。

ゲーム性や世界観はそのままに、本編『Alan Wake』とは全く異なる経験を、深甚なる体験を、実現した、至上のDLCであると、私は思う。

 

最後に。実はラストがガチで泣けます。

 最後まで遊んでね(ゝω・)v