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ゲーマー日日新聞

ゲームという文化を、レビュー、攻略、考察、オピニオン、産業論、海外記事の翻訳など、複数の視点で考えるブログ。

何故『ワンピース』はギネスを獲得するほど支持されたのか?

 

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少年ジャンプで連載中の人気漫画、『ワンピース』が「最も多く発行された単一作家によるコミックシリーズ」としてギネス世界記録に認定された。

普段はゲームの記事を書いている私は、熱烈なマンガファンというわけではない。それでも、『ワンピース』は支持されるだけあって面白いと思う。

ギネス云々で突然持ち上げるのはミーハーすぎる気もするが、これも1つのキッカケということで、ゲーム好きなブロガーとして本作の魅力について語ってみたい。

 

「アドベンチャー漫画」として鑑みる

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私自身はわりと初期の段階から『ワンピース』を読んでいたが、本作は序盤から既存の「バトル漫画」にはない魅力を何となく感じていた。

では本作の何が読者を楽しませているのか。

巷では、魅力的な登場人物でや独特の世界観が魅力として挙げられる本作だが、私は、何と言っても「アドベンチャー漫画」として特化した点が魅力であると思う。

 

本作における主人公、ルフィら「麦わら海賊団」は読んで字の如く海賊だ。海賊であるからには、彼らは海を舞台に活躍する。『ワンピース』には「グランドライン(+α)」と呼ばれる太平洋より広い海が広がっており、その上に浮かぶ大陸や島々では、様々な民族が独自の風習でもって共同体を築いている。

例えば、砂漠が生活の礎となっている「アラバスタ」、造船業が栄える「ウォーターセブン」、空に浮かぶ「空島」等が存在し、主人公はそのような島々を渡り歩き、出会った先で悪役たちと衝突しては、バトルに突入するのだ。

また、これらの固有の文化を全て統一する「世界政府」や海賊を取り締まる「海軍」、海賊でありながら政府に従う「王下七武海」、彼らに反抗する「革命軍」など、諸民族を圧倒する絶対の権力も存在し、これらは冒険の序盤から常に主人公にプレッシャーを与えている。

 

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ここまで回想すると、本作は日常的には「バトル漫画」として、様々な異能の力を持つライバルとの戦いが描かれている一方、より全体的な視野では、未知なる世界と異なる文化に接触することで成長する、「アドベンチャー漫画」として描かれいることがわかる。

実際、集英社のコピーにも「"ひとつなぎの大秘宝"を巡る海洋冒険ロマン!! 」と描かれており、むしろ「バトル」という文字が見つけられない程だ。

本作の魅力はズバリここである。まだ何も知らない主人公たちが、曖昧な噂と地図を頼りに、自分の目で新たな世界を確かめようと前進し、仲間を集めながら絶対的な権力に抗う大冒険、それがとても楽しい。

その上絶妙なセンスと軽いながらもノスタルジックなタッチで描かれた尾田氏の描写から、読者である我々さえも本当に冒険しているような感覚を惹起させてくれる。これは超人的な競技を描く「バトル漫画」にない魅力であり、バトルとは無関係である旅の描写がとても丁寧な点も、本作の特徴だ。

 

そもそも、バトル漫画はヒールによる侵略に立ち向かう「専守防衛」がプロットの定番であった。一方で本作はアドベンチャー要素を設けることで、『ドン・キホーテ』のようなアクティブな描写と敵地に乗り込む迫力を発揮している。

純粋に漫画という媒体を活用した冒険の描写、ガンガン読者を引き込んでいく原始的なナラティブこそが、本作のまず優れた点であると思う。

 

構造的な世界観を利用して

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本作は未知なる大地を探索する、マーク・トゥウェインのような冒険物語としても楽しめるのだが、このコンセプトで培われた構造的な世界観の描写は、「バトル漫画」としても楽しめる。

まず、本作はバトル漫画であるから、当然主人公であるルフィたち「麦わら海賊団」の奮闘と成長が描かれる。何らかの強敵と出会い、試行錯誤と切磋琢磨を繰り返し、そして勝利する。そのカタルシスは本作においても変わりない。

そこで、いかに「どれほど成長したか」「敵はどれほど強大なのか」という点を精密かつ魅力的に描くことで、バトル漫画の魅力は引き出せる。

例えば、人気バトル漫画の『ドラゴンボール』に登場する強敵たちは、どれもカッコイイ。堂々たる出で立ちの「セル」や、優秀な部下と能力に恵まれた「フリーザ」など。彼らの技は思わずマネしたくなるかっこよさがあって、だからこそ読んでいる我々も熱中できる。

そこで、『ワンピース』は更にキャラクターの魅力を一段落掘り下げた。それは、グランドラインにの島々と海賊、世界政府といった構造的な世界観に沿って、徹底的にキャラクターを憑依させた点である。

 

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例えば、一番最初に主人公が戦った強敵は、世界政府配下であり海賊を取りしまる「海軍」に所属する「モーガン大佐」だ。彼は武力と権力を背景に独裁的な政治を行っており、主人公は仲間となるゾロを救うべく彼に戦いを挑む。*1

ここで面白いのが、モーガンという人物には、「海軍」と「大佐」という肩書があることだ。「海軍」は権威と正義を重んじる組織であり、「大佐」という階級は当人の実力を表しており、その背景がプロット上は「噛ませ犬」に過ぎない彼のアイデンティティを強化している。

故に、「大佐」を倒した主人公はすごいと感じられるし、今後新たに登場する「少将」を倒せばもっとすごいと感じられる。こう字面にすると陳腐に思えるかもしれないが、漫画の中で緻密に描かれる「海軍」という組織や他の仲間を見た上なら、理解してもらえると思う。

他にも、海賊でありながら海軍に従う「王下七武海」、同じ海賊でもルフィたちと敵対したり同盟を結んだりする者がいるバラエティなど、「巨大なバックグラウンド」だからこそ実現する複雑な描写は多い。故に読者は考察するし、続きを楽しみに思える。

 

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そして同時に、この広大な世界観は複雑な人物描写を「手短に」描く事ができる。例えば、「青雉」というミステリアスな実力者が主人公に接近するシーンが、彼は自ら「海軍」の「大将」であることが説明されるので、読者は彼の動機まで掴めずとも、その実力や正義感まではおよそ把握できるだろう。*2

そもそも、登場人物は増やすほどに読者の混乱をまねき、ひいては読者の負担を増やすことになるが、このように構造的で体系化された世界観がキャラクターをまとめることで、新登場の人物も覚えやすいし、何よりすぐ魅力が理解できる。

 

漫画は基本的に読者が望む限り物語は続く。これは作品を陳腐化させると考える見方もあるが、同時に無数の骨格で作られた重厚な世界観を形成することも可能で、『ワンピース』は正にその世界観の上に成立している。

今考えれば『ドラゴンボール』の「スカウター」「戦闘力」という背景は実に見事だった。主人公の成長を描写する上で「何となく強そうな敵を倒した」では困る。「戦闘力53万」のフリーザを倒したとき、「It's over 9000!!」に悟空が成長したとき、読者は容易にその凄さを理解できるのだ。

 

総論

やはり『ワンピース』は面白い。これだけ長い間物語が続いていても読者からの支持が途絶えないのは、相応のパワーを秘めているからだ。少なくとも(巷で言われるように)大衆に迎合しただけで作れる作品ではない。

特に、『ワンピース』は漫画という媒体の可能性を見事に引き出しているからすごい。ロングタームの連載だから実現できる巨大な世界観であり、少年でも感情移入できるような心躍る冒険であり、そしてそれを実現できる尾田氏のイラストからコマ割りまでの描写力であったり。

本作ほどの有名な作品は語り尽くされているだろうから、「何を今更」と思う人も多いことをお詫びしたい。それでも、私にとっては思い入れのある作品だったのだ。

 

 

*1:『ONE PIECE』第一巻

*2:『ONE PIECE』第三十四巻