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ゲーマー日日新聞

ゲームという文化を、レビュー、攻略、考察、オピニオン、産業論、海外記事の翻訳など、複数の視点で考えるブログ。

【評価】『Battlefield 3』の感想やレビュー アートに溶ける紛争

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ゲーム概要

DICEにより開発された、リアルなグラフィックと大規模戦が特徴的な、マルチプレイFPSの続編。

また、本作にはイランのテロ組織を追跡するシングルプレーも追加されており、今回はこのキャンペーンのみ評価する。

 

圧倒的描写力

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このゲーム、とてもグラフィックが美しい。

いや、これほど使い古された決まり文句も珍しいが、異常なまでに掘り込まれたテクスチャ、薬莢や破片の舞い散るパーティクル、そして何より、主人公を包み込むライティングは、4年経った今でも全く衰える気配がない。

 

グラフィックが美しいゲームと言えば、『Crysis』など様々なライバルが存在するが、『Battlefield 3』の美点として、とても遠景が描き込まれている点が挙げられる。

例えば、シングルプレーのほとんどをイランのテヘランで過ごすことになるのだが、そこでは「ボルジェ・ミーラード」と呼ばれるタワーや、数々の高層ビルのような「遠景」の美しさにうっとりするだろう。

とりわけ、テヘランの中でも一等背が高いこのタワーは、プレイヤーが空を見上げる度、パノプティコンのように、この塔が妖しく見下ろしており、プレイヤーが今「戦場に閉じ込められている」ことを象徴する、ある種の監視塔のようだ。

 

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一方、ゲームの終盤でテヘランから脱出した後は、どこまでも広がるようなコーカサスの深緑がプレイヤーを迎える。

『Battlefield 3』の高度なポリゴンメッシュが実現する解放感は素晴らしい。 テヘランの迷宮のような遠景は途方もない閉塞感を与え、コーカサスの山岳はその逆の開放感を与える。

これは元々、本作が64人以上の大人数マルチプレーに対応しているからだろう。広大なマップを描写するためのゲームエンジンを採用した結果、シングルプレーにおいてもその遠景の美しさと広大さを存分に体験することが出来る。

だが興味深いことに、この奇妙なまでに美しい世界と違って、実際のストーリーはむしろ冷徹なものとなていた。

 

戦争のイメージ

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素晴らしい描写は、同じく素晴らしい脚本によって実現するものなのだろう。本作の醍醐味は、その写実的なグラフィックとは対照的に、何か抽象的な脚本だ。

まず、主人公であるブラックバーン軍曹は、テロの鎮圧を目的に、イランの紛争地域に現地入りする。そんな、彼を待ち受けていたのは、ジープに取り付けられたIEDを解除するという、えらく地味な任務だった。

 

ところが、特殊な輸入ルートを持つテロリストの暗躍によって、単なる治安維持の任務は、突如として泥沼の全面戦争へと突入する。

そして見えてくる、テヘランという街の正体。照明弾が日夜打ち上がり、爆撃によって崩壊した市街地を、輝くイランの中心「ボルジェ・ミーラード」を中心に鼠のように奔走する海兵隊。

ここでも凄まじいグラフィックによって、存在しないはずの「テヘランの戦い」を、本当に存在したように描いているのは見事だ。特に、照明弾の止まないテヘランを覆う瘴気は、筆舌に尽くしがたい。

 

また、同じテヘランという街を、戦闘機のパイロットや戦車のクルーらの視点から鑑賞できる点もよい。この複数の視点のおかげで、プレイヤーはただ『CoD』や『Crysis』のようにどんどん奥へ前進するのでなく、「テヘラン」という街へ吸い込まれていく錯覚に襲われるからだ。

本作の脚本は一見して平凡だが、昼夜を通してテヘランの戦闘を経験させ、そして脱出するという「構造」が素晴らしく、後述する本作のアートを強調している。

 

ゲーム性にも脚本にも頼らない、純粋な「紛争経験」

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本作における物語は、尋問シーンの挿入などによって、一見して複雑なものに思えるかもしれない。だが、その実体は驚くほど虚無的で、シンプルなものだ。

序盤のIED解除シーンは正に「平凡な兵士」らしい活躍をしたと思えば、徐々に非現実的な抗争に巻き込まれていく米軍だが、ミッション内容そのものは「○○を暗殺しろ」とか、「××の陣地を確保しろ」のように、いたってシンプルな内容だからだ。

 

しかし、テヘランを脱出した時、その違和感の正体が一気に発露する。核の持ち逃げと、それを阻止しようと突入するロシア軍。なし崩し的に戦死する2人の同胞、空前の出世チャンスに浮かれる上官、そして出会うスペツナズの友人。

そして、上官を射殺し、FBIの追手を振り切り、ニューヨークで仇敵と対決する。電車に乗り上げ、ブロードウェイを疾走し、銃も何も失った状態で、追い詰めたソロモンと最後の肉弾戦を行う・・・。

 

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本作は何か詩的な印象を抱く。

尋問する捜査官に理解されることもなく、結局彼らはろくに理由もわからないまま、陰謀を阻止しようと試み、国にも認められずに死んでいく。

これほど世界が美しくとも、脚本は異様なまでに冷たいのである。

この現実と非現実が錯綜する世界観は、ある意味でジョン・アーヴィン監督の『ハンバーガー・ヒル』のようでさえある。映像の美と、構造の美しさが全面にあって、中核には凍りつくような、ジンジンと響く痛みだけが我々に訴えかける。

 

「放射線は人を蝕む。人生そのもののように。あと30年、生きるかもしれない。明日には死んでいるかもしれない。」

ディミトリ・マヤコフスキー

 

本作のテーマは、むしろ『Spec Ops: The line』に類似していると思う。

しかし、本作は徹頭徹尾リアルで、「核」という抽象的な象徴を除けば、もしかしたら本当にあったかも、或いは起きるかもしれない話にも思えてしまう。

闇夜に溶けだすテヘランのイメージ、カスピ海の開放するイメージ、そして夕闇で射殺した上官のイメージ。

それら複数のイメージが、美しいグラフィックと、複合的な表現によって、詩的な記憶を再現する。ただリアルなだけでなく、一つ一つの美が印象に残るよう仕上げられているのだ。

 

それを支えているのは、他ならぬ「Frostbite」というDICEの誇るゲームエンジンである。これほどに上質なゲームエンジンは数少ないが、とりわけ本エンジンの強みとして、クリアーなシェーダーを組み合わせた「冷気」のような、透き通るイメージがある。

本作は確かにリアルだ。だが、それは徹底的に書き込んだテクスチャを貼り付けた、コテコテしたリアルさではない。むしろテクスチャに映り込む光、霜のように輝く冷たい空気感がたまらない。

私が『Battlefield3』を「アート」と評するのは、このFrostbiteが持つ素晴らしい空気感を、驚くほど十全に活用されているからである。抽象的な脚本は、Frostbiteの持つ透明感溢れるリアルさと絶妙にマッチしている。

逆に、『Battlefield4』は少しクドすぎる演出が続いたために、このエンジンの持つ美しさを活かしきれなかったように思う。

 

現代では「グラゲー」と揶揄される作品だが、インディーズゲームを中心に、ゲームのアート的な側面を評価する見方も広がっている。

「戦争」という現象から、ここまで優れたイメージを引き出す『Battlefield 3』。シューターとしては実際平凡だが、遠景、脚本、そしてゲームエンジンとの融和性からなるこのアートを、是非改めて遊んで欲しい。

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