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ゲーマー日日新聞

ゲームという文化を、レビュー、攻略、考察、オピニオン、産業論、海外記事の翻訳など、複数の視点で考えるブログ。

【再評価】『MGSV:ファントムペイン』の感想やレビュー その課題と喪われた『MGS5』

 

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以前レビュー記事を書いた『メタルギアソリッドV: ファントムペイン』を、ある程度落ち着いた今、改めて再評価したいと思う。

 

ゲーム概要

以前評価の記事を書いた際、基本的なフィーチャーには触れていったので、今回では大きく省略させて頂く。

本作は「敵を倒す」のでなく、「敵に見つからない」ように戦う「ステルスゲーム」の大御所、『MGS』シリーズの最新作。

シリーズで初めてオープンワールドを舞台としつつも、海外ゲームで培われた様々なギミックや、『MGS』ならではの濃厚なストーリー、

また、『MGS:PW』にあった、敵兵をポケモンのように回収して仲間にする「マザーベース」と「フルトン回収」システムも楽しめる。

 

アウトドア系ステルスゲームの決定版

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本作では、広大なオープンワールドを舞台とし、1つの巨大なマップには軍事施設や空港が設けられ、ミッションをプレイする過程でそれらを次々に攻略していく。

そのマップに配置された敵兵は、最初こちらの存在に気付いておらず、比較的ぼーっとしているので、その間にプレイヤーは自由に戦略を組み立てたり、敵を補足して位置をマップに表示させるなど出来る。

海外ゲームの『Far Cry』のような、いわゆる「アウトドア系」に強く影響を受けており、オープンワールドはクエストや物語を広げるためでなく、あくまで純粋な攻略のための「戦場」として活用されている。

 

2004年に発売された『Far Cry』が未だに支持され、また『Crysis』のような派生作品が作られているように、この「アウトドア系」という伝統あるノウハウを、『MGSV』は忌憚なく取り入れている。

まず、オープンワールドそのものの美麗さ。これは文句ない。荒野に巻き上がる砂埃や、暗闇の湿地帯に漂う霧のような、スケール感を感じさせるエフェクトもさながら、しっかりと建物やオブジェクトの細かな描写まで、まるで飽きさせない。

更に、『Splinter Cell』のような光と影を活用したステルス、『Far Cry』の伝統でもある草むらや高低差を利用した敵との騙し合い、『Bioshock』のダイアログ再生によるストーリー補完など、その他海外ゲームの要素を、無理なく確実に取り入れる謙虚な姿勢が、ステルスアクションに深みを与える。

 

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また『MGS』ならではの魅力として、豊富な武器による攻略法も素晴らしい。定番のダンボール、多様な近接攻撃(CQC)、新武器のデコイや万能アーム、更にはロケットランチャーまで。

これらの武器を使うスネークの動きは、まんまモーションキャプチャーが反映されたように滑らかで、それでいてカッコいい。匍匐移動する動き、走り抜ける姿勢、こういったものを美麗に描いてこそ、TPSなのだろう。

 

そして最後に、これは「アウトドア系」たるアイデンティティなのだが、敵兵のAIがかなり優れている。

まず、『Far Cry』の起こした「革命」と同じく、何と敵兵はこちらを発見しても、草むらや影で隠れたスネークを「見失い」、そこから攻撃を諦めて散策を開始する。

つまり、もし敵に発見されてもリカバリーできるので、スモーク、爆発音、味方の召還などの手段で、何をすれば敵兵の攻撃をかいくぐれるのか考えるのが楽しい。

一方、敵とてシリーズ前作のように間抜けなだけでなく、足音や物音には敏感で、そこらに落ちているガラス片を踏むだけで反応する。しかも、そういう物音に全員でひっかかるわけでなく、偵察する兵士と見張る兵士が交互に連携を取る。

また、サーチライトや迫撃砲のような設置物をシームレスに利用し、護衛すべきターゲットがいるなら、そのターゲットの周囲を警戒しながら移動する。敵を見失ってもなお、しっかりカバーに隠れつつ、威嚇射撃まで決めてくる。

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『Far Cry』等の「ゲリラ系」を中心に、あらゆる海外ゲームのフィーチャーと、『MGS』の濃厚なノウハウに加えたゲーム性を、次世代機をフルに活かして表現した本作。

それは紛れもなく、「ステルスゲーム」、いや「アクションゲーム」においてさえ、およそ到達する者のいなかった水準と言える。

自分の頭で考え、自分の実力を確かめられる、本作はまさしく「ゲーム」の中のゲームと評価できる。

 

失われた「MGSメソッド」 -物語とゲームプレイ

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さて、表題にあるとおり、小島監督は本作を『MGSV』と題して発売し、『MGS5』とは題さなかった。

これは恐らく、物語的なニュアンスがあったのだろうが、私としては少し皮肉に捉えてしまう。何故なら、本作は純粋なステルスゲームとしては魅力的でも、従来の『MGS』の魅力はバッサリ削がれてしまったからだ。

 

最たる例は、物語部分にあるだろう。

『MGS』シリーズは物語とともにあった。大量のムービー、一方的でリニアな展開、こういった、一見プレイヤーを不快にさせる要素が、『MGS』の骨であり肉であったからだ。

例えば、『MGS』シリーズは驚くほど物語とゲームプレイが連動していることで有名だ。スネークが一歩ゲームを進める毎に、真相が一つ理解し、また一方で謎が一つ増える。

そして、それらは映画業界の技法をたっぷり取り入れたムービーや、ゴージャスな声優陣による迫真の演技、サスペンスドラマのように奇想天外な脚本によって実現している。

『MGS』のムービーは、最近のゲームによくある「ゲーム中のオマケ」ではない。むしろ、物語がゲームプレイと絶妙な相互作用を果たし、プレイヤーをぐいぐいと作品へ引っ張り込むのであり、物語は純然たる『MGS』というゲームに内包されているのである。

 

だが、これらの魅力は『MGSV』においてほぼ全て消えてしまった。

まず、従来作で絶妙に調整されたムービーとゲームプレイのテンポは、マザーベースと戦地の往復という単純化された行程に押し込まれた。

キャラクターの魅力も薄い。まず味方は盲目的にヴェノムを支援するだけで、何ら精神的葛藤も背景も描かれない。(特に、オセロットは従来作での巧妙な立ち位置からは考えられないほど、薄っぺらい人物になった。)

ミラーは最も登場頻度が高いにも関わらず、威勢が良いのは台詞だけで、行動は回りに流され続けるだけ。

敵側のスカルフェイスは悪くない人物だが、隣の「燃える男」はファンサービスと言うにもおこがましい「懐古ネタ」。

一番酷いのは「第三の少年」だろう。コイツは本作の事件の全てに関わっておいて、超能力と精神を結びつけるだけという、極めて都合の良い物語のデウスエクスマキナそのものである。

 

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推理小説を書く上での法則、「ノックスの十戒」をご存知だろうか。詳細はWikipediaでも読んでいただければ嬉しいのだが、それでも本作がこのルールを踏み荒らしている点は誰もが知るところだろう。

もちろん、従来作でも「愛国者」や「ナノマシン」のような「非現実的な現象」は描かれていた。

しかし、それらは根底に、見えざる権力や運命に立ち向かうスネークたちの悲哀ある姿であったり、現に存在する問題の延長線上に存在したり、緻密にムービーや無線を交わすことで理解を深めさせるなどして、初めてプレイヤーに認められたのだ。

だが、本作では物語とゲームプレイの連携はバラバラで、半ば強引にムービーと無線が挿入されたと思えば、その安い演出の中で手早くまとめるべく、都合の良い非現実要素をプレイヤーに押し付ける。

 

更に言うと、物語そのものの方向性が本作はにっちもさっちもいかない。

『白鯨』を軸とした、スネークの復讐劇。『1984』を軸とした、言語によるサイファーの支配。『MGS2』の流れを惹起させる、BIG BOSSとメディックの主役チェンジリング。『ジョニーザマッドドッグ』を思わせる、少年兵問題。

本作にはこれだけの主軸がありながら、どの方向性に舵を切るべきかは全く見えてこない。

スネークの個人的な報復を描きながらも、実はBIG BOSSとはプレイヤーの映し身で。

言語によるサイファーの統制を描きながらも、少年兵を支配するのは現地PMCで。

プレイヤーとスネークを結ぶメタ的アプローチを用いながらも、スネークの行動は一貫性もなく。

 

もはや物語(ただの脚本のみならず、映像や人物像、演技まで)部分は、まるで虫に食い荒らされたようにボロボロであり、巷で言われる「未完」云々以前の問題だ。

ファンは『MGS』に何を期待しただろうか。奥深いステルスもそうだが、そのゲームプレイへのモチベーションを見事に引き出したのは物語部分であり、本シリーズの物語とゲームプレイは、シャムの双生児の如く、切り離すに切り離せないはずでなかったか。

 

失われた「MGSメソッド」 -プレイヤーへの負担

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最も私を失望させたのは物語とゲームプレイの、著しい乖離だったわけだが、その他にも本作にはゲームプレイ部分を中心として、シリーズの魅力が剥離したことが伺える。

 

例えば、ゲームプレイのオープンワールド化を進める上で、レベルデザインの劣化は避けられなかった。

前作までは原則、「極秘ミッション、現地調達」というルールが与えられており、武器装備はゲームを進める中で段階的に入手し、それらを用いて様々なシチュエーションを乗り切るというものだった。

これは武器弾薬の限られた緊張の味わえるリニアな前半部分と、豊富な武器で色々な潜入方法を楽しめる自由な後半部分・・・ といったゲームプレイを実現していたし、敵兵の数などレベルデザインの調整も素晴らしいものだった。

 

 

一方、本作では広大なマップに、検問所や軍事基地が点在しており、これらの個別のマップの出来が悪い。

ざっくりと建物、敵兵、オブジェクト、ターゲットが配置されるばかりで、「自由に潜入してもよい」と言うよりは、「どこから潜入しても攻略法も配置も変わらない」と言った方が正しい。

攻略に使用するマップ自体も狭苦しく、結局は麻酔銃で倒せる限り倒し、あとはCQCで片っ端から虱潰しの要領で全滅させる作戦ばかりになってしまう。武器も最初から強力なものも、ほぼ解禁されてしまっている。

 

奇妙なことに、これらの欠点は『Ground Zeros』では見当たらなかった。ミッションが長い上に、弾薬も限られ、武器も現地調達。

何より、マップのクオリティは明らかに『GZ』の方が上だった。海兵隊の軍事基地は遮蔽の多い捕虜施設、広がっていて危険な車両施設、警備の重い管理施設、遠回りに潜入できる沿岸部などにセグメント化されており、これらをどの順序で攻め入るか多様な戦略を練ることが出来た。

『TPP』も「アフガン中央軍事施設」や「ノヴァ・ブラガ空港跡」「ンフィンダ油田」は出来が良かったものの、それぞれのクオリティは『GZ』のそれに及ばず、何よりこれらを利用するミッションが(薄っぺらいSide Opsを除いて)一本ずつぐらいしかなかったのことが残念だ。

 

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だが、何よりこの問題を助長しているのは、「フルトン回収」という要素だろう。プレイヤーは敵兵を「フルトン回収」によって拉致することで、強力な武器やアイテムを作れるのだが、逆に言えば、敵兵を拉致しない限り、攻略の自由度はまず広がらない。

オマケに、敵兵全員が能力の高い兵士とは限らない。能力の良し悪しは完全にランダムで、仮に一人の敵兵が優秀だとしても、周りの兵士が存在する限り、結局全滅させるのが一番手っ取り早くなる。

別に兵士を増やしたところで、マザーベースならではの選択肢が増えるわけでなく、結局金と武器を延々供給する機械に過ぎないというのも退屈だ。(『ポケモン』や『ドラクエ』と異なり)

このような、フルトン回収が攻略の選択肢を大きく狭め、一方でランダム要素と回収の手間が、プレイヤーに一方的なフラストレーションを与える。

 

最後に、武器を研究したり、研究のための資源を提供するマザーベースを拡張するには、長大な時間が要求される。最初は武器一つに10分ほどで済むが、やがては1時間かかるようになり、マザーベースも数時間かかるようになる。

その間、プレイヤーは自由にゲームを楽しめるが、しかし何のためにこの時間を費やすのだろうか。何故オフラインのゲームでありながら、プレイヤーの好きなテンポで遊べないのだろうか。貴重な余暇でゲームに付き合うプレイヤーを、悪戯に拘束する理由はないはずだ。

 

結論:『MGS5』ではないが、『MGSV』として傑作

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最終的に不満点をいくらか述べたものの、純粋に一本のステルス・アクションとしてみた時、『MGSV』は傑作と断言できる。

ステルスアクションの中で、これほど壮大なスケールで、それもゲームとしての面白さも維持したAAA級作品は、今まで一本もなかった。「『MGSV』を買って損はないか?」と聞かれたら、その場で首を縦に振るだろう。

 

しかし、『MGS』シリーズとして観た時どうだろうか。

ゲームに没頭するプレイヤーを飽きさせない映像の挿入や、サスペンスライクでありながらプレイヤーの人生観に踏み込む物語は、どこに行ってしまったか。

わざわざ武器の開発に時間を潰させ、ちまちまとフルトン回収させるという、まるでスマートフォン向けのゲームのように、プレイヤーの時間を無駄に消費させる必要はあったのか。

また、本作のプロローグ的作品『GZ』と比べて、広さは増したものの濃度が薄まったマップや、過去作への懐古から始まりながらも、核抑止という議論を本格的に進めた『PW』と比べて、結局『TPP』は何を訴えたかったのか。

 

『TPP』は素晴らしいゲームだ。海外ゲームのフィーチャーと、既存のノウハウをしっかりと混ぜ、純粋なゲームを確立している。それは既存の『MGS』に到達し得なかった奥深さと謙虚さだ。

逆に、『TPP』は既存の『MGS』の哲学には辿りつけなかった。だからこそ、本作は『MGS5』としてでなく、『MGSV:TPP』として評価された時、稀有な傑作として認められると思う。