ゲーマー日日新聞

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【評価】『ウィッチャー3:ワイルドハント』の感想やレビュー 語り部に落ち着いたゲラルト

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ゲーム概要

ポーランド「CD Projekt RED」による、ファンタジー小説『魔法剣士ゲラルト』を原作とする、オープンワールドベースのアクションRPG。

暗黒中世をモチーフとする紛争の絶えない世界観を基に、超人的な能力を持つウィッチャー「ゲラルト」が、行方不明となった彼の教え子である「シリラ」の捜索に繰り出す。

(核心部分へのネタバレはない)

 

威厳溢れる物語と「探偵フェイズ」

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『Witcher』シリーズの3作目となる本作だが、このシリーズの何よりの魅力は、やはり原作となった小説の世界観をフルに活用した、欲望渦巻くダークファンタジーとしてのプロットだろう。

薬品により大きく進化した人間「ウィッチャー」や、彼らの敵である飛竜やゴブリンの存在など、一見してありきたりなファンタジーの王道をなぞらえる本作だが、

少しページを捲れば、紛争やモンスターの襲撃に嘆く人々、自らの欲望を太らせた指導者、迷信やデマに惑わされる大衆など、人間の本性がむき出しとなった、リアリティ溢れる世界観が垣間見える。

とりわけ、主人公は超人的な力でモンスターを撃退する「ウィッチャー」と呼ばれる存在であり、周囲の人間にとって、疎まれるべき異端であり、また最後に縋るしかない英雄でもある、極めて複雑な立場だ。

この、ファンタジーな設定を絡めつつ、根底では人間の性を見事に描く物語こそ、『Witcher』シリーズの醍醐味であり、本シリーズが3作目まで支持されてきた所以でもある。

 

加えて、その濃厚な物語に、プレイヤーの意思が大いに反映されていく「選択肢」の存在もまた、本作の魅力だろう。

本作では、出会う先々でウィッチャーとして取るべき選択肢が出現する。

例えば、道端で倒れた村民をプレイヤーが発見したとする。怪物に襲われたらしき彼は生死の境を彷徨っており、強力な霊薬で治療することも出来るが、失敗すれば激痛を伴った後に死亡するかもしれない。

こんな時、村民を楽にしてやるか、それとも生きながらえさせるかは、プレイヤーの判断に委ねられる。更に、このようなプレイヤーの判断の結果は、後のクエストやフィールドで明らかとなり、新たな物語へ展開することもある。

 

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(女性のキャラクターが多数登場するのも特徴だ)

 

また、このようなプロット面の魅力を支えるのが、ゲームプレイの中で頻繁に挿入される「探偵フェーズ」だ。

プレイヤーは、このような複雑かつ謎に満ちた物語を、単にムービーや文章の中で消化するのでなく、直接現場に赴き、「ウィッチャーの勘」と呼ばれる特殊なモードを使って謎を解いていく。

一見、単なる事故現場に見えても、「ウィッチャーの勘」を使えば、そこに人為的な細工が施されたことが明らかとなり、更に現場に残された証拠から、犯人の身元も明らかとなっていく。

このフェーズは物語の面白さを上手く引き立てており、プレイヤーの「思い込み」や他者の「嘘」を、プレイヤー自らが暴き、向き合うべき「現実」へ引き戻される面白さは、そこらのミステリー小説では味わえないだろう。

 

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(プレイヤー自らが「鍵」を探すことで、初めて物語は進められる)

 

このように、本作は、ただリアルな「小説」としての面白さに甘んじることなく、先述した「選択肢」や「探偵フェーズ」の存在により、プレイヤーが積極的に物語にはたらきかける「ゲームプレイ」としての面白さに昇華している点が興味深い。

様々な疑念やミスリードが、意外な結末へ発展し、また現実的な風刺さえ惹起させるプロットは、まさしくミステリー小説的なカタルシスと言っていい。

とりわけ、本作では前作以上にオープンワールドを自由に歩き回り、多様なサブクエストも用意されているだけに、毎日少しずつ、まるで小説のページを少しずつ捲るようにプレイできる点からも、「大人向けのゲーム」として多忙な社会人も楽しめる。

 

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(意外な顛末)

 

丁寧な造りだが、肝心のゲームプレイ面が甘い

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本作は現代作品には稀有なまでに、作り込みも素晴らしい。

従来までの『Witcher』シリーズ以上に、マップは広大でサブクエストも膨大。オマケに、その一つ一つに手抜きがなく、グラフィック面では壮大な遠景から、細やかな建造物まで描きこまれている。

何より、使い回しが少ない点は評価出来るだろう。とりわけオープンワールドが舞台となると、『TES:Skyrim』のように、全く同じテクスチャやギミックが延々と使い回されるのも珍しくないが、

本作『Witcher 3』では、東欧らしい広野が広がる「ヴェレン」、北欧をモデルにした「スケリッジ」、レンガ造りの街並みが印象的な「ノヴィグラド」など、デザイン面での多様性にも富んでいる。

 

一見して、『Wticher 3』は完璧なゲームである。どれほどの予算と期間が用意できたかわからないが、それにしても、開発陣の情熱がたっぷりと注ぎ込まれ、圧倒的な質量と品質がゲームに実現されている。

だが、肝心のゲームプレイそのものの面白さには、前作からほとんど改善が見られず、また奥深さが残っていない点が残念だ。

 

本作のゲームプレイは、およそアクションとRPGがちょうど「7:3」程度で割り振られており、プレイヤーはゲラルトを介して、基本的に剣戟による戦闘を切り抜け、あとはNPCとの会話やイベントの遭遇、キャラクターの成長に時間を費やすこととなる。

が、戦闘はあまりに平凡。『Witcher 2』の時点でとても戦闘は楽しめるものでなかったが、本作でも技やアイテムのバリエーションは少なく、また大半が実用性にかけるもので、高難度でも何度も補給できる霊薬をがぶ飲みしながら、一部の強力な印(軽い魔法のようなもの)と小攻撃を連打するのが手っ取り早い。

その割に、本作の難易度はそこそこ高く、攻撃を連打するだけではガードされ、カウンターを狙えば袋叩きにされる。ゲラルトは一撃受けるごとによろめき、スタミナがなければ回避も印もままならない。攻撃の当たり判定もかなり厳しく、単細胞な敵を相手に理不尽な攻略を強いられる。

 

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(ゴア表現はある)

 

単なるRPGとしても、新たに手に入る金銭や経験値の使いみちが乏しく、せいぜい一部のユニークアイテムを真っ先に入手するほうが手っ取り早いため、徐々に攻略しているという実感が沸かない。

何より、戦闘を含めた「ゲラルトが行う戦略」そのものに多様性がないため、いくらゲームを進めてもゲームプレイ自体に発展が全くない点が辛い。

ゲームを一定まで進めれば、強力な印や新アイテムで、新たな攻略法が用意されるわけでなく、やることはひたすら同じなのだ。

またシンプルだが、カメラワークが不便という点も指摘したい。戦闘中のカメラワークは今ひとつロックオンと噛み合わず、特に「ウィッチャーの勘」の使用中では、独特の演出と相まって酔いやすい。

 

語り部に落ち着いたゲラルト

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このように、本作は従来の持ち味だった、「原作小説をベースに展開する重厚な物語」に加え、探偵フェーズや選択肢を活用した「物語へのプレイヤーの介入」による、物語とゲームプレイの融合を特化させ、

広大なマップと膨大なサブクエストにそれらを散りばめた、貫禄ある作品へ仕上がっていると同時に、

ゲームの骨組みとなる、アクションやRPGといったゲームプレイそのものは「おまけ程度」のクオリティに留まっているという、かなり偏った作品にある。

 

興味深いことに、このような本作の性格は、主人公ゲラルトの人格にも反映されているように見える。100歳を超え、狩りの達人でもあり、また女殺しでもあるゲラルトは、仮にヒロインが危機に陥ろうと、常に冷静に立ち向かい、また自分の実力を信じてやまない。

RPGにおいて、このような主人公は珍しい。「名無しの勇者」や「無名の狩人」が成長していく物語ではなく、既に完成された超人が、語り部としてプレイヤーに物語を読み聞かせる。プレイヤーが選んだ選択肢は、実際のところゲラルトの選択肢に過ぎないのではないか。

この点は、良くも悪くもゲームの重要な要素である。万人に受ける要素ではないが、着実にゲームの根幹をなしている。ゲラルトという人格をどこまで見届けられるか、その点に本作の評価がかかっている。

いずれにせよ、全体的なクオリティは高く、確実に遊んだプレイヤーを納得させられる作品だと思う。