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ゲーマー日日新聞

ゲームという文化を、レビュー、攻略、考察、オピニオン、産業論、海外記事の翻訳など、複数の視点で考えるブログ。

ゲーマーが『モネ展』を観る

ゲーマーが観る

企画「ゲーマーが観る」では、本来ゲームを包括的な視座で論じる当紙において、ゲーム以外の様々なカルチャーにアプローチすることで、息抜きと幅広い関心を持ち、ゲームへの理解も深めます。

 

モネ展

本稿は「マルモッタン・モネ美術館所蔵 モネ展 「印象、日の出」から「睡蓮」まで」の個人的な感想を綴っています。

クロード・モネは、19世紀のフランスで印象派として様々な表現に取り組み、とりわけ光を駆使した卓越した描写から「光の画家」と呼ばれました。

 

『霧のヴェトゥイユ』 ー白銀の光

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ヴェトゥイユはパリ郊外のコミューンの1つで、閑静な街並みが広がっている。この作品では、ヴェトゥイユ側からセーヌ川を挟み、パリの都市を見渡すように描かれている。

「光の画家」の異名、そして後期の荒々しい色彩からは想像できないほど、この作品には比較的穏やかでぼんやりとした光景が広がっている。モネのタッチと霧の視界不良によって、華やかなパリの都市は蜃気楼のように霞んで見える。

それでも尚、パリの栄光と、それを包み込む穏やかな光そのものが霞むことはない。むしろ、霧の中で光が反射と屈折を繰り返し、幻想的な風景をそのままに眩さばかりが我々に届く。さながら、お伽話に出てくる白銀の城のように。

光は美しい。だが「光るほどに」美しいとは限らない。眩しい、燦然としたものに人は惹かれるが、そのせいかビデオゲームにおける3Dグラフィックスにおいて、バカの1つ覚えでレンズフレアを乱発した、眩しさだけで光を表現しようとする傾向にある。

霧の中でこそ、むしろ世界は輝く。白く、歪んだ世界であろうと。

《Vétheuil in the Fog, 1879, Musée Marmottan Monet, Paris》

 

『テュイルリー公園』 ー理想郷のイメージ

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かつて、パリ中枢に佇んでいたテュイルリー宮殿は、16世紀にヴァロア朝により建築されたもの。ここで描かれる庭園は、その後ブルボン朝のルイ14世により増築されたもので、新たなヴェルサイユ宮殿の建築までフランス王朝の栄華を象徴する庭園だった。最も、フランス革命と国民の反乱によって王朝を象徴する宮殿そのものは破壊され、皮肉にもこの庭園だけが唯一現代まで残り続けている。

モネはパリ滞在時にこの庭園をモチーフとした作品をいくつか残しており、この作品もその1つだ。画面左側にはまだ健在している宮殿が、奥に向かってはパリ市街が描かれ、中央には緑豊かな庭園と休暇を満喫する市民が描かれている。

風景画としては、巨大な宮殿とパリ市街の近代的な建築物と相まって、やや圧迫感を感じさせる構図を用いながらも、モネ特有の色遣いと庭園の優美さによって、むしろ庭園が描く「都心の中の憩い」を投げかけており、観る者に近代的な洗練具合と安らぎを同時に見出させる。

私が初めてこの作品を現場で観た時、最初は「恐らく作品が持ってこれず、仕方なく液晶画面に映されてるんだな」と勘違いするほどに、皓皓たる光の描写に目を奪われた。滑稽なエピソードではあるが、あの庭園を歩く一市民の幸福を思わずにはいられなかったのである。

《The Tuileries, 1876, Musée Marmottan Monet, Paris》

 

『睡蓮』 ー限界を克服する

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”光の画家”モネのもう一つの顔、日本芸術を愛し、その造形を自分の作品に取り込んだ知日的な側面が現れるのは、彼自身の生活が安定し始めて、自分の庭園を持つことが出来るようになってからだ。

この作品が完成したのはモネ67歳の時。モネの白内障が発症するのは68歳の時だから、彼自身の視力は健在だった頃の作品である。にも関わらず、作品の中には滂沱として光は氾濫し、静謐なモネの庭園は、太陽の焔に焼かれていると思わせる程の色彩を帯びている。

時に、睡蓮は美しい花を咲かせることで知られる。だがモネの”睡蓮”連作の多くで、彼は睡蓮の”葉”を描き続けた。しかしこの光と水のコントラストを描くダイナミックさが印象強い。この固定概念にしばられない発想の柔軟さはどこから生まれたのか。

ある画家は、モネの最高傑作をこの「庭園」そのものだと評する。庭園はさながら油田のように、無限のイマジネーションをモネに供給し続けた。それでも、70歳を迎えようとする肉体と頭脳で、これほど幻想的な作品を残していることが信じられない。

《Water Lilies, 1907, Musée Marmottan Monet, Paris》