ゲーマー日日新聞

ゲームという文化を、レビュー、攻略、考察、オピニオン、産業論、海外記事の翻訳など、複数の視点で考えるブログ。

発売から半年、改めて『MGSV:TPP』のストーリーを考察する

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物議を醸した大人気『MGS』シリーズの最新作、『メタルギアソリッド・ファントムペイン』。

当ブログでも数記事において取り上げた。レビュー、攻略、考察。多くの方に読んで頂けたことを覚えている。その中で私自身、ゲームプレイを高く評価した一方で、ストーリーを含めたトータルなデザインを批判した。

 

驚いたのは、今『MGSV:TPP』がたった2000円ポッキリで販売されている現状だ。ざっと75%off。顧客の不満、そこから漏れでた不評は、単なる評価だけでなく『MGSV』の売上にも響いているに違いない。

私は今でも『MGSV』の物語、ナラティブは批判している。理由は以前記事で説明した通りだ。それでも尚、私はまだあの時「評価し損ねた魅力」を説明出来ていない。

ここからは、酷評された『MGSV』の物語を、酷評された点から振り返る考察を展開しようと思う。

当然だが大量のネタバレを含んでいる点を留意してほしい

 

異例の人事異動、英雄でなく凡夫。

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『MGSV』は衝撃的なオチがある。それは主人公が「ビッグボス」でない、単なる「凡夫」と判明するオチだ。

これは海外のRPG(『Skyrim』)やFPS(『Far Cry』)等では珍しくもないが、ソリッドスネーク、ビッグボス、雷電等の「英雄」が主人公として描かれた『MGS』シリーズでは極めて異例だった。

主人公に「英雄」を起用するか、「凡夫」を起用するか、その理由はそれぞれある。「英雄」ならばダイナミックな物語を体験出来るし、「凡夫」ならリアルで納得のいく物語を楽しめる。本作は後者だったのか。

 

周囲の人物は、依然として英雄だらけだ。

とりわけ『3』『PW』との物語の繋がりを、本作は重視する。オセロット、ミラーは当然として、敵側の第三の少年、燃える男、スカルフェイスでさえ『3』に原点がある。

当然、主人公になるはずだった「ビッグボス」も『3』から一貫してシリーズに影響を与える、超大御所の役割だ。だからこそプレイヤーは、本作に大御所の裏側、大御所の心理を理解できると期待した。そして裏切られた。

 

ビッグボスの真実は凡夫であり、「メディック」だった。彼はシリーズから事実上切り離された「新キャラ」の一人であり、英雄たちに囲まれた物語では非常に浮きだっている。呼ばれてもいない同窓会に、ひょっこり現れた不登校だった少年のように。

物語の見せ場は所詮、シリーズの「同窓会」だ。大量の既存のキャラを投入し、彼らの闇を映し出す。ファンには感慨深いものがある。

結局、ストーリー全体で見れば、メディックは英雄たちに見事操られた、哀れなピエロにしか見えない。オセロットやビッグボス、ミラー、スカルフェイスが独自に策略を張り巡らせる中、メディックは脇役なりに自己の役割を悟り、オセロットの洗脳を受け入れた。

 

鍵はクワイエット

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「でも、私が彼らと共有した言葉は・・・ いやそれは言葉ではなかった

だから私は・・・彼らに感謝の言葉を使い

また静寂に帰るのだ」

 

メディックはプレイヤーが主人公として感情移入するためには、あまりに哀れで無力な存在だった。ここまで必死に彼を導いたのに、体よく「英雄」に利用される。プレイヤーが馬鹿馬鹿しく感じるのは当然だ。

しかし、英雄でも凡夫でもない存在がいる。それは「クワイエット」だ。彼女こそ、この物語最大のキーマンであると私は思う。

 

クワイエットは、メディック同様に貴重な「新キャラ」だ。ファンお馴染みのキャラが出そろう中、クワイエットだけが新キャラなのである。だから、彼女も無力だし、英雄たちの仕組んだ運命には何ら干渉できない。スカルフェイスに雇用され、ミラーに拷問されるだけだ。

だがその無力さの割に、物語は彼女に注目する。大量のムービーで彼女の成長、心境の変化を赤裸々に描く。「出会い」から「別れ」まで、専用のミッションを用意して描く。彼女はメディック、そしてプレイヤーと長い時間を過ごす。

先述したように、メディックは凡夫だ。彼がマザーベースを建築し、ミラーやオセロットのような優秀な部下を持つのは、あくまで「ビッグボス」という権威があるからに過ぎない。全てはビッグボスの偉大な目的のためなのだ。(プレイヤーは認可していないが)

 

だが、クワイエットだけは別なのだ。彼女は、彼が「ビッグボス」でなく、メディックという個人として初めて持った、唯一の部下だ。彼女は彼がビッグボスであるとは無関係に、シリーズの物語とは無関係に、メディック個人に付き従うことを選ぶ。

彼女の物語は悲劇的だ。XOFの一員として病院に侵入するが、ビッグボスの反撃により負傷。スカルフェイスに修復され、復讐の機会を窺うが、そこでもメディックに反撃。むしろ捕虜にされてしまう。

その後は、ミラーによる拷問、オセロットによる利用が待っていた。それでも彼女がメディックとDDを仲間だと思った頃には、声帯虫の発症を恐れて自決を選ぶ。彼女はあまりに儚く、無力だ。

 

だからこそ、彼女はメディックと同じ次元、同じ凡夫として、戦場を共に過ごすことが出来た。「バディ」には馬やロボットを連れて行けても、人間として、部下として連れていけるのは、クワイエットだけだ。

ミラーやオセロットらの英雄たちが、上からどんな指示を出そうとも、クワイエット程にボスと近い距離にいた存在はいない。彼女とは戦場で敵として出会い、戦場で仲間として別れる。プレイヤーとメディックが、建前や運命を抜きにただ「戦闘」だけで彼女と繋がれた。たとえ彼女が喋らずとも。

余談だが、彼女とボスの関係は、ちょうどオセロットとビッグボスの関係に似ていると思う。戦場で出会い、「物語(言葉)」を欺いても彼に忠を尽くすオセロットは、クワイエット同様に印象深い。

 

「三上は今この瞬間を噛み締めた

ここで、刑事部屋でないこの部屋で部下を得たーーー。」

横山秀夫『64』

 

ボスの生き様

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本作の物語は確かにまとまりがないし、単純に脚本としても、構想としてみても辛いところがある。オマケに、明らかに打ち切りエンドだ。

それでも、プレイヤーがボスとして生きた経験は残る。英雄が支配する運命、そこで無力なメディックであっても、彼は確かにボスなのだ。

 

唯一の部下、クワイエット。言葉を交わすことなく、ただ闘いの間でのみ通じあった部下。報復心から始まり、そこで仲間を得た。ムービーの説教臭い言葉はいらなかった。彼女は彼女なりの手段で、ボスへ「忠を尽くした」。

まだ才能を発揮しない「ラスボス」、リキッド・スネーク。彼は偽りの「親父」と知って反抗した。燃える男は、ボスが偽りだとわかると潔く永遠の眠りについた。ボスの心境にはまだパスの姿が離れず、実はミラーにもオセロットにも信頼されていなかった。

 

ボスは頼りない凡夫だ。だからこそ、彼なりの生き様を、運命に飲み込まれながらも、そこに自己を確立しようとする生き様を見いだせるのではないか。

同時に、そんな彼を同じ凡夫の立場で理解してくれるクワイエットもまた、本作の魅力を支える素晴らしいキャラクターだと思う。(だから、離脱しちゃった後はそっとしといてあげてください)

 

お前たちの無念を、海の藻屑にはしない。