ゲーマー日日新聞

ゲームという文化を、レビュー、攻略、考察、オピニオン、産業論、海外記事の翻訳など、複数の視点で考えるブログ。

【評価】『Undertale』の感想やレビュー 千夜一夜RPG

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※プレイヤーの判断を極めて重視する作品のため、本稿はネタバレを極力回避しています。

そのため、登場人物、ロケーション、物語、その他固有名詞への言及もありません。ご安心してお読みください。

 

ライト版

arcadia11.hatenablog.com

 

ゲーム概要

2015年、独立系のtobyfoxが開発したRPG。MOTHERのような独特な世界で、弾幕STGとドラクエを組み合わせたようなゲームを進める。

とりわけ、戦闘中に相手を説得し、戦闘そのものを回避するMERCYというシステムが特徴的で、キャッチコピーは「誰も死なないでいいRPG(Killing is unnecessary)」。

インディーズ出身ながら、発売と同時に国内外から極めて高い評価を受け、数々の賞も受賞した。

 

インディーズゲーム業界の風雲児、その正体

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当初23歳のToby氏がほぼ個人で作り上げた本作は、世界中で既に150万本近くも販売されている(SteamSpy調べ)。インディーズ出身の作品にしては驚異的な数字と言えるだろう。

少し自慢をすると、私が本作『Undertale』を遊んだのは、まだ今ほど注目されていなかった頃だ。私がファンの海外のある批評家が、絶賛していたことがキッカケで購入し、何とかテキストを読みながら進めていた。(つまり英語版の感想となる。)

本作はRPGだが、テキスト自体の難度は低く、一部を除いて児童書レベルのテキストだったので、私でもサクサク読み進められた。

裏を返せば、本作のテキストは、難解な文学調の表現や、論理的なトリックが使われているわけでないのに、私を含めて本作に強く惹かれる者が跡を絶たないと言える。

 

では改めて。『Undertale』がここまで支持された魅力とは何か考えたい。恐らく本作は、『Minecraft』のように何か革命的なアイディアで成功を掴んだわけでない。理由はよりシンプルなはずだ。つまり、本作が純粋にゲームとしての質が高いから、プレイヤーが評価した、それだけだと思う。

具体的に2つの理由が挙げられる。まず、本作は全体的に極めて洗練され、プレイヤーに一切不満を抱かせない完成度がある。次に、本作は多様なゲームジャンルからノウハウを吸収し、多くのファンを取り込む多様性を持つことだ。

 

さて、前者の「高い完成度」とは、要するにプレイヤーがゲームを遊ぶ上で、一切不満や面倒臭さを感じずに楽しめる意味だ。単純な理由だが、それがいかに困難かは説明するまでもないだろう。

驚くことに、本作では移動、ロード、作業プレイといったムダは(理由がある場合を除き)綺麗さっぱり削られ、プレイヤーの熱中が冷めることはない。

一方で、物語の整合性、難易度の調整、退屈させないゲームプレイを見事揃え、プレイヤーは飽きることなく没頭する。

これは基礎的なことだが、「楽しいゲーム」にとって重要なのは、アッと驚かせる独創性より、長時間のプレイに耐えうる基礎そのもの。『Undertale』はまずここをガッチリ掴んでいる。

 

千夜一夜RPG

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toby氏本人

 

さて、本格的にゲーム内容に切り込むとするなら、まず触れるべきは「誰も死なないでいい」という特殊なテーマだろう。

本作において、主人公は通常のコマンド式戦闘「Fight」に加え、色々な手段でモンスターとコミュニケーションを取り、殺さず停戦する「Mercy」という手段を持つ。

加えて、本作の世界観はとても牧歌的なもので、モンスターは大抵話せば理解してくれるし、登場人物も個性豊かだ。モンスター同士も仲が良く、友好的に接すれば彼らと会話やイベントまで楽しむことが出来る。

ここでも先述した完成度の高さが発揮され、とりわけ会話やテキストの質・量に関しては圧倒的。何度も話しかけたり、主人公が色々な行動を取る度に、彼らのリアクションが変化するのには舌を巻く。動画も美麗なCGもないのに、登場人物の息遣いまで聞こえてきそうな臨場感に圧倒されるだろう。

 

しかしこの独特な雰囲気、どこがで見覚えがあると思った方もいるかもしれない。そう、作者も公言する通り『MOTHER』シリーズが大きく影響している。メタ要素が入ってる点で『moon』も想起させるし、音楽では『東方Project』の影響があり、弾幕を避ける発想はCaveシューター、キャラクターの造形は『スーパーマリオRPG』に近い。

そう、本作は古今東西、あらゆるゲーム作品のノウハウを躊躇なく吸収し、それでいて見事に均整なバランスで1つの作品に保っているのだ。ジャンルこそ異なるが、これは以前評価した『アンチャーテッド』や「パクリの塊」とすら言われた『Dead Space』の造りに近いと言える。

事実、作者のToby氏自身が、本作を自分が今までプレイしたゲームを原料に「カクテルシェーカー」を通して作った作品だと説明している。本作は一見珍妙なRPGでありながら、多様な作品を模倣したことが前提にあると言えるだろう。

 

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台詞周りは特に『スーパーマリオRPG』が大きいだろう。

 

当然だが、本当に「カクテルを作るように」これほどの作品が完成するはずはない。むしろ模倣を重ねるからこそ、その整合性と理論の維持には圧倒的なセンスが必要になる。

だからこそ、本作にはあらゆる作品の追憶が練りこまれ、プレイヤーはさながら千夜一夜物語を疾走しながら経験するかの如く、その物語に圧倒される。

時に、個性豊かなキャラクターのために笑い、時に、プレイヤーの願いが込められた脚本に泣く。

時に、作品の問題提起にのめり込み、時に、作品をひっくり返すようなトリックに驚かされる。

時に、美しくも熾烈な弾幕を必死に避け、時に、モンスターたちとの交渉に頭を捻る。

デザイン、物語、ゲーム性。あらゆる作品の追憶が、滂沱の如くプレイヤーの経験に流れ込み、絶え間なく揺さぶりかける。

その濃厚な数時間にドップリと浸かったプレイヤーは、アレほど稠密たる物語から突如切り離され、戸惑い、悲しくなり、あれは夢だったのではないかと放心するだろう。

そして、それを確かめるべく、気付けばゲームを再開しようと手を伸ばす。こうなれば立派なUndertale中毒というわけだ。(私だ!)

 

Undertaleの”革新” ー誰もが等しく遊べる多様性

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”あなた”のための物語だ。それは人種、思想、趣向を超越する。

 

ここまで、あくまで私は『Undertale』を客観的かつ理屈っぽく論じてきた。「ネタバレ禁止」の前提で本稿を書いている上、他サイトで十分語られた物語やキャラの魅力も掘り下げる必要は薄いと感じたからだ。

しかし、ここからは本格的に『Undertale』が達成した革新、本作のオリジナリティに触れたいと思う。それは、本作が高い完成度と多様なゲーム性を実現することで、同時に「多様なプレイヤー」を別け隔てなく楽しませた、本作の「アクセシビリティ」という貢献についてだ。

 

私は先ほど、本作は「千夜一夜RPG」であり、多様なRPGを模倣しつつ、Toby氏の絶え間ない努力と豊かなセンスが合わさることで、秀逸かつ多様性あるゲームになっていると説明した。

そう「多様性」だ。このゲームは、たくさんのゲームの魅力を模倣したから、色々な遊び方、様々な魅力があり、それぞれが磨かれている。

驚くべきは、本作が「多様性」を達成することで、同時に「プレイヤーの多様性」すら受け入れていることだ。

 

本作はSteam評価で96%以上の人間に「高評価」を受けた。これは極めて珍しい。

私自身が高く評価したゲームでも、大抵は「高評価」は75~85%ぐらい。96%という数字は、本作を遊んでない人間からすれば、胡散臭いとすら思うだろう。

だが、80%の人間にとって面白い作品が、20%の人間に嫌われるのは、別段おかしな話ではない。

例えば、どんなに面白いFPSも、その人は銃が嫌いなら楽しみようがない。どんなに魅力的なヒロインがいる恋愛ゲームも、プレイヤーが同性愛者なら白けるだろう。いずれも極端な例だが、プレイヤーの数だけ趣向も存在する以上、20%の人間が切り捨てられるのは無理もない。

では本作はどうだったか。

 

仮に、もしあなたが、RPG好きだとする。それなら本作で探索と戦略が楽しめる。もしあなたが、STG好きだとする。それなら本作で避けゲーと弾幕観賞が楽しめる。

もしあなたが、クールな人物が好きなら男気溢れる騎士と、キュートな人物が好きなら母性溢れる管理人と仲良く出来る。

もしあなたが、物語に笑いを求めるなら友達が渾身のギャグをかましてくれて、物語に倫理観を求めるなら世界に起きた謎を追い求めることが出来る。

もしあなたが、ハードな音楽が好きなら”MEGALOVANIA”でノリノリになれて、時にアコースティックな”Undertale”でしんみり出来る。

もしあなたが、本作の”世界”そのもの直面して、冒険して、そこからプレイヤー毎に生まれる”願い”があれば、その願いを想定した物語が用意されている。

(更に!猫好きなら猫を撫でることが出来、犬好きなら犬と遊ぶことが出来る!!

 

無論、『Undertale』は全てのプレイヤー一人ひとりの好みに応じて、変幻自在に楽しめる作品と言うつもりはない。それでも、本作は各魅力が絶妙に絡み合い、補完し、ある一面で疎外されたプレイヤーも、ある一面で虜にし続けたのだ。

現状のゲーム市場では、プレイヤーに好みがあるのだから、ゲームは特定のプレイヤーに向けて「売りこむ」のが当然だ。銃が嫌いなら買うな。難しいゲームが嫌いなら買うな。それは当然の話かもしれない。

だが、その稀有なデザインとセンス、そして多様な作品を土台として築かれた本作のような作品ならどうだろう。

本作の最大の魅力、それは個人に対して伝わるだけでなく、よりマクロな視点でそれは見えると私は思う。

そう、あらゆるゲーマー、彼らを等しく、別け隔てなく楽しませる本作の「多様性」。ゲームを愛するtoby氏が、ゲーム好きのために作った本作、その懐深さは、本作が起こした最大の革新であり、将来ゲーム史に刻まれるであろう所以だ。