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ゲーマー日日新聞

ゲームという文化を、レビュー、攻略、考察、オピニオン、産業論、海外記事の翻訳など、複数の視点で考えるブログ。

【評価】『オーバーウォッチ』の感想やレビュー 重厚だが保守的

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ゲーム概要

『Diablo』や『Starcraft』など、数々の名作マルチプレーゲームを開発した、Blizzard Entertainmentによる、オンライン対戦専用FPS。

プレイヤーは個性豊かな20人のヒーローから1人を選び、6名から成る2チームが、マップ上のオブジェクトを奪い合う。

 

ワン・フォー・オールを味わう

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オーバーウォッチはチームプレイに特化したFPSだ。用意された20人のヒーローは、それぞれ強みと弱みがあり、6人の味方がそれぞれ協力して、特定のエリアを占拠したり、ペイロードをゴール地点まで護衛する。

例えば、ヒーローの一人「トレーサー」は、その機動力から敵を撹乱することを得意とするが体力が少ない。そのため、囲まれればあっという間に溶けてしまう。

そこで、圧倒的な体力でダメージを吸収してくれる「ロードホッグ」のような、いわゆるタンクが必要とされるし、回復スキルで吸収したダメージを癒せる「マーシー」がいれば、その壁は盤石なものとなるだろう。

 

このように、プレイヤーは選んだヒーローによって、勝利に貢献する道は異なってくる。ロケラン大好きな戦闘狂、戦略的にチームを導く司令官タイプ、ヒーラーとして戦線を維持するサポートなど、プレイヤーの性格に応じたゲームプレイが存在するので、どんなプレイヤーでもひとまず腰を落ち着ける事ができる。

ヒーローも粒ぞろいで、昨今流行のゲームジャンル「MOBA」系の名作にも負けず劣らず。セクシーな女性キャラクターから、中二病全開のニンジャ、癒し系の仏像(?)まで選り取りみどりで、単純に遊んでいて飽きが来ない。

基本的に6vs6のチームプレイFPSだが、6人それぞれに与えられた役割は固有のもので、プレイヤー毎に責任と貢献は異なる。だからこそ毎試合新たな発見と成長があり、チーム同士がうまく連携できた時の盛り上がりは凄まじい。

 

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革新的なようで保守的

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チームプレイ重視の作品自体は別段ユニークでもない。同じシューターなら『スプラトゥーン』が最近流行ったし、『Battlefield』や『TeamFortress』、『Enemy Territory』と枚挙に暇がない。

にも関わらず、本作が発売前からここまでメディアに注目されたのには理由がある。それは作り手「Blizzard」ブランドと、現代ゲームシーンを飾る「MOBA系」への露骨な対抗意識を垣間見るデザインだ。

 

実際のところ、本作は見た目ほど斬新でなく、むしろクラシックなデザインに基づいているように思える。

まず、本作の特徴として挙げられる「ヒーロー」システムについて。明らかに「MOBA」を意識したシステムだが、実際は従来までロケラン兵、衛生兵といった程度の「クラス」システムを、更に細分化させたものだと考えてもらってよい。

また、伝統あるBlizzard出身の作品となれば、少なからず高難度な作品なのかと思っていたが、操作は驚くほど簡単で、ロケジャンのような小技・テクニックはほとんど求められない。シューターのド素人でも全く問題なく遊べるだろう。

 

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しばらく遊んでみて、やはり本作のデザインに最も近い作品は2006年辺りの、『TF2』や『ETQW』のような作品に強く影響を受けたように感じられる。つまり、現代作品ほどカジュアルで平坦的ではないが、古典的作品ほどハードで複雑でもないといった具合だ。

「Blizzardブランドの新規IP」という鳴り物入りで参入した『オーバーウォッチ』だが、その内実は堅実かつ古典的だ。無論、長年調整を加えたであろう、素晴らしいデザインとバランスも加わり、誰もが面白いと納得させるクオリティに達している。

逆に、既存の大々的なプロモーションに対し、この安定した着地に少し肩透かしをくらったのは否定できない。面白いのは間違いないが、やはりどこかで遊んだなという既視感が拭えず、初めてこの手のシューターを遊んだ時のように、熱に浮かされたよう感覚はなかった。

 

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一時期はとてつもないプレイヤー数を誇った『TF2』。原型となった『TFC』はかなり高難度。

 

FPSの袋小路を打開できるか?

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本作におけるプレイフィールは、実際のところ『TF2』を始めとしたクラス制FPSに極めて近い。事実、様々なエッセンス、武器の使い勝手や、ルールそのものは既存の作品から流用され、既視感が拭えない。

また、数時間サクッと遊べば終わるシングルプレーの作品とは異なり、マルチプレーでは長時間のゲームプレイが前提となり、かつ人口の確保は何よりの課題となる以上、新規性の薄い本作のアプローチは弱い。

また、『オーバーウォッチ』は純粋なマルチプレータイトルであり、競合相手も多い。15年以上の伝統によってe-Sportsを牽引する『CS:GO』、任天堂ブランドと新鮮なプレイフィールで切り込んだ『スプラトゥーン』、技術力とカジュアルさで常に顧客を維持する『BF』に『COD』。これらの「古巣」からやって来たプレイヤーを、本作は引き止められるだろうか。

このように、シューター業界自体が名作で逼迫し合う状況にありながら、なお他のe-Sportsタイトルも健在だ。とりわけ「MOBA」のユニークかつ多様なゲームプレイは、初めて遊んだ者ならそのスケールに圧倒されることだろう。

 

その点において、本作には「何だこのゲームは!」と驚かせ、情熱あるプレイヤーを「おとせる」だけの個性あるゲームプレイをもたらせるとは思えない。とりわけ、期待されていた20人以上のヒーローの戦略性は、既存のMOBA作品よりは小さく、敵・味方を見てから慎重にピックしたり、特定のチャンプを使い続けるリスク・リターンは少ない。

Blizzardというブランドも重い。MOBAの母でもある『Warcraft』を始めとした革命的RTSの数々、MMOの雄『WoW』、マルチのデバイス面でゲームプレイを提供する『HoS』など、ゲームの常識を変えた作品ばかりだが、本作はそれらと同様の「レガシー」となりうるだろうか。

無論、まだまだ私も本作を遊びつくしていないし、開発側やプレイヤー側の研究により、新たなテクニック、新たなゲーム性が開花するだろう。くどいようだが、本作は優れた作品だし、よく研究されている。完成度は極めて高い。

それでも『オーバーウォッチ』が真にその可能性を発展させるには、あと数年は様子を見る必要があるかもしれない。

 

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『CS』は15年以上の歴史を持ちながら、他作品と一線を画するデザインを維持した驚異的な「イノベーション」だ。当時のFPSがもたらした革命を、現代でどう発展させられるだろうか?