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『Half-Life』世界最高傑作とうたわれたFPSの本質

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現代では一生かけても遊びきれないゲームが数多のメディアで発売されている。その中で、10年、20年経っても語られる名作とは何だろうか。日本人なら『マリオ』『ゼルダ』『FF』等の名作が真っ先に挙げられるかもしれない。

一方、海の向こうでも”故郷”のように愛される作品が存在する。それは恐らく、1998年に数多のGOTYを獲得し、未だに数多くのファンから絶賛されるFPS、『Half-Life』だ。

かつて、インターネット上で山のように議論され絶賛された『Half-Life』だが、今やその文献も減りつつある。現代の視点で、この伝説的FPSは何が優れていたのか考察していこうと思う。

 

www.youtube.comファンメイドの非公式トレイラー。本作の魅力が詰まっている。

 

Half-Lifeのメソッド

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『Half-Life』とは1998年にValveから発売されたFPSで、米国の巨大研究施設「ブラックメサ」で勤務する科学者ゴードン・フリーマンが、実験途中で侵入してきた未知のエイリアンや、証拠隠滅のため出動した海兵隊と戦いつつ生き残るという、サバイバルホラーFPSである。

当初、このゲームはFPS史で初めてゲームとしっかり絡めて「物語」を導入した事で各ゲーム雑誌で絶賛され、一躍Valveの知名度を上げた。そういう点で、ValveにとってSteamというプラットフォームを築く橋頭堡だったとも言える。

 

とはいえ、FPSにストーリーを載せる事自体は当時も大して珍しくなかった。当初既に『System Shock 2』(1994)という先駆者がいるからだ。

それでも、『Half-Life』だけ飛び抜けた評価を得るには、いかにして物語とFPSを絡めるかについて、いくつか画期的な方法と完璧なクオリティがあった。ここからはそのメソッドについて順を追って説明していく。

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『System Shock 2』(1994)

 

で、『Half-Life』がFPSとストーリーを結びつける上で、どのような工夫をしたのか、要点は以下の3点となる。

1.Half-LifeはFPSという媒体の可能性を追求した

2.具体的には、「一人称視点=主人公はプレイヤー」という構図を維持するため、主人公を誰でも感情移入できる一般人にし、かつ演出を全てリアルタイム&画面内に抑えた

3.そこにリアリティある演出の数々、サスペンス要素のあるストーリー、徹底したゲームプレイの調整で引き締めた

 

何故FPSなのか?

優れた作品には、必ず何故その素材を使ったのか?という疑問への応えが用意されている。『Half-Life』も、FPSという媒体を用いる上で、FPSという表現方法の可能性を徹底して研究した。

以下では、本作のイントロ部分に秘められた数々の工夫について言及しようと思う。

 

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プレイヤーがまずニューゲームを開始すると、モノレールのような乗り物の中から始まる。すると、ここがブラックメサという研究所である旨の車内アナウンスが始まる。一方自分も窓の外へ視線を移すと、忙しなく動くロボットや、護衛と思しき軍人たちの姿を確認できる。

 

このように、本作では全てのイベントが、カットシーンを介さずリアルタイムで進む。これにより、高い没入感を維持したまま、ゲームを進められるようになっている。

 

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そこからモノレールを降りると、しばらく進むと、警備員から「おはよう、フリーマン」と声をかけられ、別の研究員からは「今日は特異物質の研究だ」と言われ、気の毒そうに保護スーツ(HEVスーツ)を渡される。

 

更に、本作の主人公はフリーマンという研究所の職員であり、プレイヤーにとって感情移入しやすい至って普通の人間として存在している。

 

『Half-Life』の最も革新的なメソッドが、この2つである。

まず、カットシーンを一切介さずにゲームプレイを進める手法。これによって、ゲームプレイが断絶されることなく続き、FPSならではの没入感を一層強めている。更に、自分の視点で観察することで、実際に世界に触れているような感覚に陥る。

次に、主人公を誰でも感情移入できる一般人に設定したこと。これはFPSならではの、主人公とプレイヤーが同じ視野を共有するポイントを活かした手法で、あくまで自分自身が主人公として戦っているような一体感を得られる。

このように、『Half-Life』は画期的なメソッドによりFPSならではのゲームプレイを実現した。だが驚くべきは、その先見性の上で、途方もない情熱を掛けて磨き上げた「仕上げ」である。

 

リアリティに満ちた世界観

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「FPSならではの表現とは何か」

こうした新規性から『Half-Life』は類を見ないFPSならではのゲームプレイを構築していった。だが単に「新鮮だ」というだけなら、後発の作品に埋もれていったに違いない。

現代でも本作が語られ続けるのは、純粋に「質」である。並のゲームシリーズが生涯到達できないであろう、徹底して磨き上げられ、ツルッツルになったダイアモンドのような質。それが本作が未だに語られる理由である。

まずは、リアリティに満ちた世界観について考えてみよう。

 

例えば、「主人公が一般人」で、「演出がリアルタイムに起こる」という表現なら、過去にも『System Shock』のような作品でも実現しているし、現代なら『Call of Duty』等数多くのFPSで踏襲されている。

一方で、『Half-Life』はまず舞台となるブラックメサ研究所から、本当に存在するのではと思える程に作り込まれている。まず職員用オフィスや簡易研究棟などを進みつつ、中盤からは運送用トロッコ網や冷凍室、廃棄物処理場へと移っていく。マップを広げて「ステージ1からステージ2へ移動する」ということなく、極めて自然に研究所を探索する感覚を再現しているのだ。

 

より細かい視点で見れば、本作は登場する「武器」にすらリアリティを持たせている。本作では、唐突に廃墟の一角にロケットランチャーが浮遊したり、道端にアサルトライフルが落ちている、などということはない。

ここは研究所だ。最初は工具用のバールや、警備員の持つピストルがせいぜいの武器。だが途中からは、海兵隊の亡骸からSMGを奪ったり、研究所の深層に辿り着くと、極秘研究で生み出されたレーザー兵器を発見することが出来る。

 

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またゲームにありがちな謎解きですら現実的な方法を使う。例えば、浸水した床に電流が流れて進めないというシーン。よく見ると床には電灯から切れたワイヤーから電流が流れており、電灯のスイッチを切ることで渡れるようになる、という仕組みになっている。

或いは、貨物輸送用トロッコに乗りながら、海兵隊の作ったバリケードを強引に突破することも出来る。

  

このように、細かい舞台や演出の一つ一つに、徹底してリアリティをもたせることで、先述したFPSならではの没入感と一体感を、極限まで高めている。自分が本当にゴードンフリーマンであると感情移入するためには、自分が立っているブラックメサ研究所も現実の存在だと考えなければならないからだ。

 

サスペンス性の高い脚本

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昨今、カットシーンやQTEを増やすなどして、「演出」に力を入れた作品自体は珍しくなくなった。だが「演出」というガワだけ作り、「脚本」という中身がスカスカな作品が多い。

『Half-Life』も、ただFPSに脚本を上手く載せた先見の明だけ評価されたわけでない。本作の脚本はSFサスペンスとして見ても、極めてゲーム的な合理性がありながら、かつ先の気になる、極上の品質に仕上がっている。

 

上述した「モノレールのイントロ」にしてもそうだ。モノレールのアナウンス、研究員との会話を通して、ここはアメリカの巨大な研究所で、主人公はそこで勤務する平凡な研究員であること、そこをアメリカ海兵隊が警備していることを、すぐ理解できる。

重要なことは、決して説明書などの前情報もなく遊んでも、違和感なく物語に溶け込めるということ。本作には道端に落ちたメモや、長ったらしいカットシーンは一切挟まなくとも、常に変化し続ける研究所の惨状を理解する事が出来る。

 

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そして、研究の失敗、エイリアンの侵攻が始まる。徐々に施設が破壊され、研究員は殺され、研究所はエイリアンの支配下に置かれる。そこで、武装ヘリと共に現れた海兵隊。ようやく救援が到達したのかと、胸をなでおろす。だが海兵隊が銃を向けたのは、命乞いをする研究員に対しても同様だった。

深まる謎。何故海兵隊は我々に銃を向けるのか、エイリアンはどこから来たのか、我々は何を研究していたのか・・・?こうした常に二転三転しながらも、新たな謎が生まれ、主人公は研究所の深部へ進み続ける。

そこに、FPSならではの没入感と一体感を高めるメソッドと合わさり、単に小説を読んでいる時とは比較にならない程、この「謎への不安、緊張、好奇心」が、プレイヤーをエイリアンとの戦いに駆り立てるのだ。

 

この脚本は、『Half-Life』にとって当然重要な核である。だが実際のところ、『Half-Life』では本物のSF小説さながらの脚本が実現したのか?という疑問を持つ方もいるだろう。

この疑問に対する問は簡単で、要はゲームのためにマジモンの作家をValveが雇用したから、という身も蓋もない理由に過ぎない。

本作の脚本担当、マーク・レイドローはオレゴン大に在学中から作家を志望し、『Dad's Nuke』『Neon Lotus』『The 37th Mandala』等の作品を残しており、そのうち『The 37th Mandala』は世界幻想文学大賞の長編部門を受賞するなど、着実に一流作家としてのキャリアを積み上げていた。

そんなマークの人生を変えたのが、ゲームだった。元々アーケードゲーム等をプレイしていたマークは、『MYST』という作品と出会う。その独特なストーリーテリングに魅了された彼は、自分の才能をゲームに費やす決意をし、Valveの門戸を叩いた。

類稀な作家としての実力、ゲームへの強い関心、その2つを偶然持ち合わせたマークがいたからこそ、『Half-Life』は完成したのである。

 

磨き上げられたゲームプレイ

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このように、ごく自然にゲームへ感情移入できるリアリティや、ゲームに最適化されながらも手に汗握る脚本があっても、『Half-Life』が発売されたのは1998年だ。当初のゲーマーにとって最大の関心は、世界観やストーリーのような「前菜」でなく、遊びごたえのあるゲームプレイこそ「メインディッシュ」だった。

そんな飢えたゲーマーにも評価されたのだから、本作のゲームプレイも一流のもとだとご理解頂けるだろう。

 

まず『DOOM』より引き継がれた、FPSの原初的にして高度な戦闘を、本作も妥協なく追求している。それは個性豊かな敵と戦ってもわかるだろう。

例えば、Headcrabという小さな蟹のようなエイリアンは、飛んできたところをバールで叩くとか、エイリアンの雑兵Alien Slaveは、まずビームを避けて銃で反撃したり、また天井から触手を垂らして獲物を捕獲するBarnacleなどは、ドラム缶や人間の死体を「餌」代わりに食わせて回避する、という面白い手段もある。

中でも白眉は、口封じのため送り込まれた海兵隊だろう。彼らは当時としては画期的に優秀なAIを持っていて、こちらが撃つと遮蔽物に隠れ、逆にこちらがリロードしている間は撃ち返し、更に集団で包囲するように立ち回ることまで出来る。敵兵を撃っていたら、気付かぬ間に背後から別の敵兵に銃撃される、なんてこともあるのだ。

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全く油断できない奴ら

 

そして何より、サバイバルという限界状態を再現するため、常に弾薬やヘルスがカツカツになりながらも、決して積み状態にならないというレベルデザインが凄まじい。

途方もない数のテストプレイが積み重ねられたのだろう。大半のプレイヤーが初見プレイでギリギリ突破できるような絶妙な調整。仮に難所に思えても、数回挑戦すれば突破できるシビアさだ。今遊んでも、十分楽しめるものになっている。

 

FPSにおけるマイルストーンはいかに生まれたか

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ここまで長く述べてきたのだが、結局何を伝えたかったかというと、かつて『Half-Life』というゲームが存在していて、こうした魅力を大なり小なり引き継ぐ形で、現在に語られる数々のFPSが生まれてきたということ。

本作はFPSにおける『時のオカリナ』であり、『Age of Empire』であり、『World of Warcraft』なのだ。本作を知ることで、数多くのFPSが本作の何を、どのように模倣したか知り、FPSがどう発展したか考えるきっかけになると思う。

『Medal of Honor』、『Deus Ex』、『Portal』、『Halo』などの名作FPSが生まれ、このゲームを機に、FPSはロケットランチャーで敵を粉微塵にする快感よりも、高い没入感と一体感を活かした映像的な体験を重視する傾向が強まったと思う。

更には、このゲームそのものを媒体に、『Counter Strike』、『Team Fortress』など、今でも遊ばれるような傑作がMODという形で生まれ、ザッピング形式というアドオンならではの表現を追求した『Half-Life Opposing Force』、Gravity Gunや傑作Engine等含めて絶賛された続編『Half-Life 2』など、傑作FPSを直接産んだ母としても、本作は高く評価されている。

 

さて、ここまで読んで頂いた方は、果たして本作がそれほど評価に値するか疑問を抱いた方もいるかもしれない。ならば、是非とも今もSteamで販売されている『Half-Life』を手にとって欲しい。感想は人それぞれだろうが、当初絶賛された理由も理解できるはずだ。百聞は一見にしかずである。

…え?グラフィックが古すぎる?エンジンの挙動がおかしい?さすがに今遊ぶのはキツい?

そんな方もご安心。実は有志により立ち上がった巨大MOD計画『Black Mesa』が着々と進行しており、今ではValveから公認され、製品化にも成功。まだ完成に至っていないものの、Source Engineにより美麗に再現され、謎解きや挙動も理不尽さがなくなるなど、更に磨き上げられた名作だ。今遊ぶならこちらも良いだろう。

 

 

最後に、『Half-Life』について述べる上で大いに参考にさせて頂いた旧Gamelifeに謝意を表したい。