ゲーマー日日新聞

ゲームを「ゲーマー目線」で語る独立系ゲーム紙 | 依頼等はメールに | note https://note.mu/j1n1 | 連絡先ak47ava(at)gmail.com

【評価】『シュタインズゲート0』の感想やレビュー 話は面白いがゲームではない

スポンサーリンク

f:id:arcadia11:20180114175428j:plain

以前、『STEINS;GATE』原作をプレイした時、あまりの完成度故にガッツリ感情移入してしまい、クリア後は多大な達成感と共に寂寥感から2週間近くショックでメンタルが壊れかける事態に陥ってしまった。(褒め言葉)

そんなわけで、その正統続編である本作にも多大に期待していたのだが、いざプレイしてみると、かなり残念な続編だった。

本作はタイトル通り、初代『STEINS;GATE』と極めて密接に関わる続編なため、まず初代と比較しながら評価と課題を検討したい。

 

当然ネタバレがあるので、先にゲームをプレイすることを推奨します

 

www.youtube.com

 

前提:

本作は2009年発売のADV『STEINS;GATE』の続編。本編最終章の直前で「紅莉栖を救う」ことを諦めた岡部が、その後どうやって紅莉栖を救う手段に辿り着くか描いている。

最もこの空白期間も、たきもとまさしによる公式の「β外伝小説」3作と、同じく公式のドラマCD『無限遠点のアークライト』で描かれたものであり、本作はこれらの作品を踏襲したシナリオになっている。

 

評価①:「AMADEUS」という存在

f:id:arcadia11:20180114132918j:plain

まず評価点について述べる。

さて本作最大の鍵、「紅莉栖を救えなかった世界」での戦い。原作で描かれたβ世界線において、まゆりの死を回避するため紅莉栖は岡部に助手として可能な限り手助けをするが、その結果として岡部は紅莉栖を犠牲にしてしまう。

このように元々、紅莉栖は極めて重要なキャラクターであり、原作『シュタゲ』のコアと言っても過言ではない存在だった。

 

f:id:arcadia11:20180114175549j:plain

で、かなりメタな話をすると、このメインヒロインが死んだ世界線で面白い続編を作ることは、極めて困難である。まぁ、まゆり派という人もいるかもしれんが、紅莉栖ありきの脚本で前作が作られた以上、紅莉栖を失った『シュタゲ』なぞ肉のないすき焼きみたいなもんなわけで。

その代わりに導入されたのが、この「AMADEUS」。紅莉栖を模したAIである。本作では彼女と会話が出来るアプリをスマホへインストールすることで、再び彼女との邂逅を可能にする。同時に、それがAIであるにも関わらず岡部は依存してしまいそうになっていく…。

このアイディアは外伝小説からの輸入となるが、素晴らしい着眼点だ。まず、前作の「タイムマシン」に対して「人工知能」という設定は、想定科学ADVとして十分ユニークなものだし、AIとして蘇った紅莉栖と、それに依存する岡部という関係は本作の寂寥感を一層引き立てている。

実際、このAMADEUSはかわいい。前作の紅莉栖程でないにしろ、よそよそしいAIが少しずつ人間に心を開いていく…という、AIならではの過程も描かれているし、前作のタイムマシンに代わる重要な装置となる…はずだった。

 

評価②:次々に移動する世界線の描写

f:id:arcadia11:20180114175439j:plain

前作は未来ガジェット研究所がタイムマシンを開発し、それを狙うSERNとの戦いに発展するわけだが、本作β世界線においては岡部らはタイムマシンを保有しておらず、代わりに中鉢論文を持つロシアや各先進国だけが保有している。

そのため、本作は突拍子もなく世界線が移動する。ある時はソ連が復活した世界線、ある時は紅莉栖の生きているα世界線など。気づいたら戦場にいたり、研究所にいたり、未来にいたりと、前作にはない一方的にタイムマシンを使われてしまう(=世界が戦争へ向かっていく)危機感を煽る描写として中々に秀逸だった。

ゲームならではの一人称視点の語りともよく合ってると思う。

 

評価③:2人の新キャラクター

f:id:arcadia11:20180114172918j:plain

新キャラクターはいずれも魅力的で、前作にはなかったダークな物語を構築する上でも役に立っている。

まず椎名かがりという女性について。彼女は小説版では脇役に徹していたが、本作ではメインヒロイン級の活躍をしていて、場合によっては彼女が主人公となる。

本作で描かれるβ世界線の功罪を表す人物となっていて、悲惨な運命を辿る時もあれば、可能性を導く時もある。特に過去の岡部に「星の奏でる歌」を伝えるシーンはかなり名シーンだと思うし、α世界線で紅莉栖が危惧していた、タイムリープマシン等の記憶改竄による技術の危険性を象徴する人物でもある。

(ただ、見た目が紅莉栖に似ている、というのに何の理由もなかったのは少し残念だったが)

 

f:id:arcadia11:20180114172947j:plain

次に比屋定真帆という、紅莉栖が在籍する研究所の先輩に当たる人物。彼女も紅莉栖同様にコミュ力が低く、色々残念なところもあるが、最終的にラボで紅莉栖の代わりにタイムマシンに貢献することとなる。

上手いなと思ったのは、紅莉栖をアマデウスに仕立て、自分がサリエリであると卑下するエピソード。確かに紅莉栖は前作でメインヒロイン級の活躍をするにあたって有能過ぎたので、こうしたエピソードはβ世界線独自のものだなと。前作で感じた「人間らしい登場人物」を特に感じさせた人物だった。

 

課題①:チグハグな物語

f:id:arcadia11:20180114173248j:plain

ではここから、課題点について考察したい。

まず本作最大の課題は、複数のライター・原作者が入り交じることで全く整合性の取れない話になったこと。本作自体に林直孝、 安本亨、たきもとまさし、土屋つかさの4人が脚本としてクレジットされている上に、最初述べたように、本作は外伝小説やドラマCDをも原作にしているので、余計にゴチャゴチャしてしまっている。*1

一方、初代は主に志倉千代丸が原案を持ってきて、林直孝が組み立て、ニトロプラスの下倉バイオらが上手く支えるという形にしていたそうなので、物語とテーマに一貫性があった。

本作『0』は複数のライター、複数のメディアと整合性を取るために、ゲームオリジナルエピソードよりも外部メディアを尊重する保守的な内容となっていて、外部メディアの既読者にはあまり新規性がない。

それどころか、キャラクターの心情までも一貫性が欠け、エピソードが唐突に切り替わり、純粋にエピソードによって出来不出来がハッキリしていたりして、とにかく全体的にチグハグというのが私の認識だ。

ここからも課題点を述べるが、その殆どはこの「外部メディア」「外部ライター」を全部混ぜた結果、整合性のない作品になってしまったことが原因でないかと考えている。

(最も、既に読了した小説版とドラマCD自体は十分評価している。特に『無限遠点のアークライト』は物語の穴埋め、まゆりの掘り下げとしても最高の補完だったと思う。)

 

 

課題②:群像劇によるゲーム性の放棄

f:id:arcadia11:20180114175521j:plain

本作は外伝小説のプロットを引き継ぐに当たり、群像劇のように、語り部が何度も変更される。私はこれが残念だった。別に群像劇自体は否定しないのだが、本作をゲームとして楽しむには不相応な手法と感じたからだ。

【評価】『シュタインズゲート』の感想やレビュー ADVに本当に必要だったもの - ゲーマー日日新聞

ここでも書いたのだが、前作の優れていた点は、『シュタゲ』が本来は選択肢程度しかゲームらしさのないADVにも関わらず、綿密な岡部の心理描写と、フォーントリガー、彼のリーディングシュタイナーを活かして、ちゃんとプレイヤーに岡部と同じ時間旅行を体験しているような気にさせる、「ゲームらしさ」だった。

つまり特殊なギミックやトリックがなくとも、話そのものを面白く工夫すれば、十分に「ゲームならではの体験」が味わえたのである。

一方、本作は脚本が群像劇になっていて、プレイヤーが実際に逼迫した状況にいる感覚が希薄になってしまっている。

これではただの小説に過ぎない。無論、『SIREN』や『街 〜運命の交差点〜』など群像劇ならではのゲーム性を確立した名作もあるが、本作はこうした工夫がない。*2

 

課題③:タイムマシンの放棄とAMADEUSの浮いた設定

f:id:arcadia11:20180114174355j:plain

そして同じような課題なのだが、本作ではタイムマシンを最初から放棄してしまっているため、岡部が極めて無力である点も、前作にあったゲームらしさの欠如に思えた。

前作の岡部は様々な苦難に襲われるのだが、それに対する最強の切り札としてDメール、及びタイムリープマシンを持っていた。

これは脚本の「ゲームらしさ」を際立たせていて、岡部に優位性を与えたり逆に傷つけたり、同時にプレイヤーと岡部を結びつける重要なリンクにもなる、『シュタゲ』最大の鍵だったわけだが、本作の岡部はそれを放棄している。

そのため、窮地の打開策が 、他力本願か運良く変わるぐらいしかなく、話としても面白いとは言えない。

 

f:id:arcadia11:20180114173307j:plain

で、その穴を埋めると期待していた、同じ脳科学から派生したAI「AMADEUS」というテーマは、想定科学アドベンチャーとしても重要な柱となると思ったのだが、彼女の存在感は期待よりも薄い。

まず、存在する5ルートのうち2ルートは意図的にAMADEUSとの接触を断つ前提のルートになっているし、AMADEUSと接触する3ルートに関しても、主人公が意図的にAMADEUSを使うことも少なく、結局はAIというか単に記憶データの奪い合いになっていて、AMADEUS本体はストラトフォーの撒餌に過ぎなかった。

確かに比屋定ルートと紅莉栖ルートでは、彼女は重要なポジションとなる。ただそれも、見せ場は最後の最後になってしまっている。その結果、結局頼るものはタイムマシンである、というのも勿体無い気がした。タイムマシンの功も罪も、前作でたっぷりと描かれたわけでさすがに食傷気味だ。

せっかくスマホのアプリにあるのだから、定期的に手動でAMADEUSと会話させる機能とか付けてもよかったんじゃないだろうか。ゲームらしさの一端にもなるし。何にせよ、私自身が認知心理学を齧っていてAI自体をどう描くか期待したので、この辺はかなりガッカリした。

 

 

その他気になった点:

・岡部の責任はどこにあるのか

f:id:arcadia11:20180114174419j:plain

これは小説版の時点でも抱いた感想なのだが、本作の岡部があれほどパシられる理由が感じられなかった。

前作でも岡部は散々タイムリープさせられ、非情な選択を強要される被害者なのだが、同時に好奇心故にタイムマシンを作ってしまった罪と、それに伴って紅莉栖という少女に出会う幸運があったからこそ、話として辻褄が合った。

で、本作でそこまでモチベーションが湧くかというと、かなり微妙だ。結局岡部がタイムマシンを作らなくても世界は崩壊する、というのは原作時点で「あれ?」と思ったのだが、まぁ一瞬で通りすぎることなので仕方ないと思った。

けど本作では、周囲にひたすら「何で行動しねえんだよ」と無職の息子を持つ母親のようなキャラに囲まれ、岡部もどうするかウダウダ悩んでるのは、かなり奇妙に感じる。そりゃ世界を救えるのは岡部だけだから叱咤激励するのはわかるが、特に罪もない岡部を無限の時間旅行にまで駆り立てる動機が弱く感じた。上手くAMADEUSを組み合わせれば良かった気もするが…。

f:id:arcadia11:20180114174441j:plain

 

・黒幕の存在が弱い

f:id:arcadia11:20180114175604j:plain

今回の黒幕は明らかに陳腐。まず前作のSERNを含めて、ストラトフォー、DARPAと何種類も黒幕を用意する必要はあったのだろうか。しかも全員同じようなことしか言わないし。

前作の場合、SERNとの戦いは上手く描けていて、SERNはとてつもない脅威であると同時に、ハッキングしたりタイムマシンの原動力に利用したりと出し抜くこともあったし、そもそもSERNを倒した先にも、世界線の収束という最大の敵が存在していた。

本作では、この辺の調整が大変曖昧で、理由もなくこちらの行動は筒抜けとなり、どのルートを辿っても黒幕と戦うオチになるのは安直すぎる。何より、紅莉栖が生きていた頃より、紅莉栖が死んで記憶だけになった時の方が敵が増えるのは謎。

 

・キャラクターの魅力が薄い

f:id:arcadia11:20180114174555j:plain

遊ぶ前から懸念していたが、やはりキャラクターの魅力がない。紅莉栖は死に、岡部は精神をやられ、鈴羽もα世界線の陽気さが消えている。

まぁこれは、話の流れから仕方ないとしても、その穴埋めに登場するキャラクターがどれも微妙。比屋定真帆と椎名かがりはメインキャラクターだけあって中々人間らしいのだが、まゆりの3人の友達や、例の黒幕、そしてAMADEUSは殆ど存在感がない。

何より、まゆりという人間への注目が足りない。紅莉栖がいない世界で岡部を支えられるのはまゆりだけなのに、『無限遠点のアークライト』のオチ以外で全然活躍しないのはまずい。コンセプトから考えても、『シュタゲ0』はまゆりのための話なのに。

 

・岡部のメンタルを抉る心理描写は素晴らしい

f:id:arcadia11:20180114174752j:plain

愚痴だらけになったが、少なくとも序盤はよく出来ている。α世界線でボロボロになり、紅莉栖を見捨てたことで自己嫌悪に陥った岡部の絶望的な状況を、上手く心理描写出来ていると思う。これは小説版にもない、ゲームオリジナルの要素だ。

白眉なのは、一瞬α世界線に戻って生きている紅莉栖と出会うシーンだろうか。愛する女性を自らの手で失った絶望感を滾々と語った後に、偶然その本人が目の前に現れる、途方もない希望。そして直後に、紅莉栖によって宣言される別れの絶望。「忘れないで」から「忘れて」へと願いが変わる瞬間。これには思わず私もあまりのダメージ故にゲームを中断せざるを得なかった。

あと、紅莉栖の記憶データを消去することを躊躇っていた岡部が、最終的に「紅莉栖を解放してやってくれ」と、AIの彼女を再び”殺す”決断をするシーンも最高だった。それでこそ鳳凰院凶真。

f:id:arcadia11:20180114174806j:plain

うわああああああああああああああああああああ 

f:id:arcadia11:20180114180702j:plain

 

結論:ゲームは独立したメディアでやるべき

f:id:arcadia11:20180114175810j:plain

結論として、やはり最大の問題は「複数のライター」と「複数のメディアの流用」だったと思う。元々の小説やドラマCDは面白かったのだが、いざゲームとして作るとチグハグで一貫性もない、新要素のAMADEUSも活かしきれてない。

何より、前作にあった一人称視点で心理描写を描いた「ゲームらしさ」が大きく失われているのが大きな問題点に感じた。

無論、ゲーム自体は全ルート遊ばせるに十分な魅力があり、楽しかった。だがそれにしても、本作は保守的過ぎた。本作のストーリー自体は「過去を振り返らず前に進もう」というポジティブなものなのに、皮肉なことに、このゲーム自体が後ろ向きなのである。

 

一方、私が思い浮かべたのはアニメ作品から派生した劇場版シュタインズゲート『負荷領域のデジャヴ』だ。

こちらは、SG世界線確立後に、無数のタイムトラベルによって自己を失いかけた岡部を紅莉栖が救済するという話だったが、作中一番の苦労人である岡部の救済という「本作で描ききれていない部分」を補填するという点では、余程こちらのプロットの方が続編に向いていたと思う。劇場版は尺の都合でガバガバになった部分もゲームならみっちり書けるだろうし。

いずれにしても、初代の劇中劇を描くのはかなり窮屈に感じる。既に散々メディアミックスで描かれたわけだし。あえてゲーム化するならSG世界線ないし未来でやってほしかった。(5pbメインで作るThe Committee Of Antimatterお願いします)

 

といっても、私は『ゼロ』を楽しめて良かったと思うし、新たな『シュタゲ』の展開に期待もしている。この作品は千代丸作品の中でも稀代の名作だし、あれから10年近く経った今でもファンに愛されているのがその証拠だ。

ただ、もう少し冒険してもいいのではないか。確かに初代は名作だし、メディアミックスも粒ぞろいで、プレッシャーも大きいかもしれない。だがいい加減、過去に囚われず、ゲームというメディアを活かした『シュタゲ』を再び作ってみるのも良いだろう。

今年は初代をフルアニメ化した『Elite』が発売されるらしいのだが、その先の新展開があるのなら、是非本作以上の可能性を見出して欲しいと私は考えている。

 

その他、下倉バイオさんによる「シュタゲ論」

【STEINS;GATE】シナリオライター下倉バイオが語る『シュタゲがゲームとして優れていたこと』 - Togetter

下倉バイオさんのシュタゲ無印でのお仕事 - Togetter

 

 

 

*1:因みに外伝小説を書いたのはたきもとまさし

*2:唯一、記憶喪失化した椎名かがりの目線を描くのは面白かったが