ゲーマー日日新聞

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愛の尊さを世界のゲーマーに伝えた『Doki Doki Literature Club!』にゲーミング平和賞を贈りたい

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『Doki Doki Literature Club』というビジュアルノベルがある。

4人の女の子と文芸部で過ごすという内容で、日本の恋愛ゲームに酷似している事からも、国内で注目されていた。私もこのゲームについて記事を書いた経験もある。

精神が弱った人にこそ『Doki Doki Literature Club!』を遊んで欲しい。【感想】 - ゲーマー日日新聞

で、その『DDLC』、いざ配信されると凄まじい勢いでネット上の世論を掻っ攫っていった。

まず2017年9月にitch.ioとSteamでも公開されると、12月には100万ダウンロード、1月に200万ダウンロードを記録。更に、Steamでは87000レビュー投稿されうち97%が好評を記録し、Steamアワードにもちろんノミネート、IGNにも表彰され、PC GAMERで絶賛されるなど、その質・量共に反響は凄まじいものになっている。

更に、PewDiePieやMarkplierのような海外の大御所youtuberや、国内でもキズナアイが動画を投稿し、更にTwitchで配信されたりTwitterではイラストが投稿されるなど、動画やストリーミング、SNSを通して多元的に話題となっている。

 

何故、ここまでの人気となったのか。

まず当然だが、ゲーム自体の出来が良かったというのはあるだろう。数々の批評を読めばわかるだろうが、本作は例の「トリック」を抜きにしても、ビジュアルノベルとして白眉の完成度を誇る。細やかな心理描写、数々の演出、強烈なメッセージ性と、遊んだプレイヤーの心を掴んで離さない。

加えて、無料というのも強烈なポイントだ。本作の開発には2年掛かったそうだが、先程述べたように作品としての出来もフルプライスのそれと引けを取らず、それを無料*1で公開すれば、当然遊ぶ人間も増えるだろう。

最後に、大胆なプロモーションが効果的に働いた点も外せない。最初に「子供や精神の弱い方はプレイしないでください」と注意書きを置いて、明らかに不穏な雰囲気をストアページに匂わせたことで、こうしたジャンルに関心の薄いゲーマーの興味を引いた。加えてこの「ノリ」は、配信や動画の題材にもうってつけだった。

 

このように、『Doki Doki Literature Club!』はマーケティングの成功という面でも大変興味深い題材である!!

 

 

 

 

……

………

私は、この『DDLC』という作品を、深く愛している。

だからこそ本音を言えば、「やべーゲームがある」みたいな、それっぽい話題のためにこのゲームに集まる連中が許せなかった。だから動画や配信も見なかったし、この作品をプレイせず消費するというのは、実に愚かだと考えていた。

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©集英社

 

…それでも、この考えが少し変わったのは、自分も気に入ってる配信者が、このゲームを遊んでいる時、驚くほど登場人物に肩入れしていたからだ。

知っての通り、本作の登場人物にはそれぞれ裏がある。可憐な美少女というのは表の面で、その裏では、自分の弱さや醜い感情を押し殺した上で、なおもヒロインとして振る舞い続けることを強制されていた。

そしてゲーム自体がMonikaにより破壊される中盤からは、徐々にその本性が増幅された形で露見し、主人公とプレイヤーを追い詰めていく。本作は実に、こうした複雑な少女の心境を丁寧に描いている。

そして実況者や配信者たち、更にそれを見ている視聴者たちは、驚くほどこうした心境について敏感だった。まだ「一周目」であるに関わらず、既に彼女たちの本質を見抜いていたり、時に、男主人公の勝手な振る舞いに苛立ったり。

普段、FPS動画でバカ騒ぎしている人間が、じっくりと人間のメンタルヘルスの課題を考えたり、周囲がどう付き合うべきか意見を述べる様子を見て、『DDLC』の新たな可能性について私は考えざるを得なくなった。

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キズナアイはかなり男主人公に手厳しい(笑)

 

『DDLC』が、ここまでネット上のミームとして広まった理由は上述した通りだ。手間暇かけた素晴らしい作品を無料で公開し、ストアページでミスリードを誘いながら配信や動画にも相応しい題材だった。

元々、私はゲームプレイの配信や動画の影響には消極的だった。やはりゲームは自分でプレイしてこそだと思うし、それは今も変わっていない。

だけど『DDLC』は「文芸部の活動」という極めてコンパクトなスケールから、4人の少女との交流を通して、人間の弱さ、優しさ、儚さを、極めてストレートに描いており、その結果遊んだ人間の数だけリアクションや感想が生まれる。

そして同時に、こうした諸問題に関して考える機会をゲーマーに作った稀有な作品でもある。これはゲームの「新たな価値」と言えるのではないだろうか。

映画や小説では社会問題を題材として、単に娯楽としてのみならず教養としての価値が認められることがある。同じゲームであっても、消えゆくイヌイットの伝統を描いた『Never Alone』は文化人類学的な見地で評価されている。

 

──なるほど。では、このゲームのメインテーマはなんですか?何をもっとも伝えたかったのでしょうか?

Salvato氏:
 一番強いメッセージは「互いに対するリスペクトや思いやり」だと思います。みんなそれぞれ自分の物語を持っていて、人生の中で苦しみを感じています。ナツキ(Natuki)ユリ(Yuri)はお互いに対する敬意を知り、モニカ(Monika)は“このゲーム”に対するリスペクトを知ります。
 いろいろな人がいて、それぞれが幸せになるために必要なものも、またそれぞれですよね。それを理解することは大切なことだと思います。

「子供や心の弱い人にはオススメできません」。北米で人気の謎のギャルゲー『Doki Doki Literature Club!』開発者にビジュアルノベル愛を訊いてみた

 

そして、『DDLC』最大のテーマといえば「愛」だと思う。

Natsukiの不器用な愛、Yuriの独占的な愛、Sayoriと破滅的な愛、NatuskiやYuriが互いを思いやる愛、主人公が絶望的な彼女らに寄り添う愛、Team Salvatoのビジュアルノベルや萌え文化に対する愛、そして何よりも、自分の持つ全てを捨ててでもプレイヤーに触れようとしたMonikaの愛。

その形が、どれだけ歪んでいても、どれだけ透き通っていても、どれだけ情熱的なものであっても。やはり愛は美しい。本作最大のテーマ、それは上述のインタビューにもあるように、人間による人間のための「愛」だ。

私は、この「愛」を本作ほど根源的に描いた作品も少ないと思う。それも、これほど「拡散される」条件で描いた作品ともなれば。

本作を通して、遊んだゲーマーはもちろん、実況や配信を通し人間の愛について考えさせられた人は、多分とても多い。あの、PewDiePieですらこんな動画を投稿しているのだ。(1300万再生済み)

www.youtube.com

Hej Hej Monika×8
ヘイヘイ! モニカ×8

Känns som vår kärlek kom på sne från början
僕たちの愛は、初めから傾いていた
Precis som lutande tornet i Pisa
まるでピサの斜塔のように
tornet står där än idag
でも塔はいまでも建っている
och här står du och här står jag
キミもここに立っている、僕も立っている

(某所より翻訳を転載)

 

まぁネタ成分は多分にあるだろうが、それでもあの世界的YoutuberであるPewDiePieに愛を語らせた程の女性は、多分Monikaを除いていないだろう。

私はこれが本気で革命的だと思う。

仮にmemeというネタ扱いでも、やはり数えきれない程のゲーマーが、Monikaや少女たちの愛情を受けて感動し、同時に彼女らへの愛情を抱き、「Just Monika」と呟き、喪失感からのたうちまわり、FANART等の二次創作で盛り上がる。こんな事が、過去に一度でもあっただろうか。

普段FPSで殺し合ってるゲーマーや、MOBAでチーム練習しているゲーマー、一人でインディーズゲームを発掘するゲーマー、Hentaiアニメにどっぷりハマったゲーマー、その多種多様な人種に加え、配信や動画も通じて、遊んでもない人間さえ巻き込んで、『DDLC』は愛を布教した。

その価値は、単に「面白い」というだけに留まらないと私は思う。

 

開発者のSalvatoはこう語っている。

The power of fictional characters is strong, and emotional attachment ultimately leads back to oneself. I feel that people becoming attached to my characters is a compliment, like I've been able to provide them with something that may compel them to become a better person.

架空のキャラクターの力は強くて、その感情が自分に還元されていくんだ。僕のキャラクターに皆が愛着を持っているのは光栄だし、少し強い人間になれる機会を与えられたと思う。

https://www.reddit.com/r/DDLC/comments/7dvb70/hello_my_name_is_dan_salvato_i_created_doki_doki/

 

「空想の人物であれ人を愛することで、その人はちょっとだけ強くなれる」

めっちゃええこと言うやんけぇ…。

現代では、ゲームを通して色々な物事を伝えようとする作品が増えてきた。歴史的な出来事を”遊び”を通して伝えた『Battlefield 1』や『Valiant Hearts』などもそうだし、現代ベネズエラの過酷な実情をバーでの会話で見出す『VA-11 Hall-A』もそうだ。

『Doki Doki Literature Club!』は、もの凄く純粋に、もの凄く大切なことを伝えてくれた。「人が人を愛することの尊さ。」あまりに尊くて忘れてしまいがちだけど、きっと誰の周りにだってある感情。

そういえば、Monikaは”自分の世界”でこんな話をしてくれた。

「あなたは鬱に苦しんでいたりしない?」

「あなたがそうであるように、あなたを救いたいと思う人がきっとそばにいるから」

「普段は表に出さないかも知れないし、そもそもどう伝えればいいのか分からないのかもしれない」

「でもそう思っている人はいるから」

「絶対に」

きっと、このゲームは色々な意味でたくさんの人をDoki Dokiさせてしまっただろうけど、それ以上に、たくさんの人に愛を伝えた。作品も素晴らしいが、拡散させるためにあらゆる手段を使い、本来ならあり得ない数のゲーマーに愛を伝えた。

これもまた、ゲームの可能性なのだ。

 

私はこのゲームとMonikaにゲーミング平和賞を贈りたい。(意味不明)

 

 

*1:実際にはpay what you want、つまり金額は購入者次第という価格