ゲーマー日日新聞

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『S.T.A.L.K.E.R.』という傑作を改めて語りたい 「ウクライナ版異世界転生FPS」としての魅力

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最近、異世界に転生して、現実世界の技術や能力を持った主人公が活躍する、そんなラノベが流行っているらしい。

今思うに、2006年ウクライナのGSC Game Worldが開発した、カルト的人気を誇るFPS『S.T.A.L.K.E.R.』はウクライナ流の異世界転生モノだったのかもしれない。

 

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……

夜中を走るトラック。他の死体と共に、あなたは投げ捨てられる。

目を覚ますと、そこはウクライナのチェルノブイリ原発周辺の地域「ZONE」だった。

かつて政府により封鎖されたこの場所は、アノマリーと呼ばれる謎の物質が出現し、それを狙う密猟者であるストーカーや、彼らを狙うバンディット、そして危険なミュータントの徘徊する危険な場所だ。

にも関わらず、記憶さえ失ったあなたが持つものは、劣化が進んで精度もガタガタになったピストル「Fort-12」と、数本のマガジン、食料と包帯数点、そして「Strelokを殺せ」というメッセージ。

そして何より、あなたはここで何をしても良いという自由を得たのである。

 ……

 

このイントロダクションは、数あるゲームの中でも最高にして最悪のものだ。

まず不親切極まりない。自分はこの世界がどのようなもので、どう遊べばいいのかもわからない。

仮に、説明が少なくプレイヤーの意志を尊重する『Fallout3』でも、核戦争で消えた平和の事を教えてくれるし、あの荒野に立てばいかに秩序が崩壊したかひと目でわかる。

だが、何というか『S.T.A.L.K.E.R.』のイントロはそれ以上に説明がない。誰も助けてくれず、この危険で鬱蒼とした東ヨーロッパの森林は、そうした混迷する己をますます惑わせる。

 

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それでも、目の前の世界には異常なまでの現実性がある。

焚き火を囲うストーカーたちも、薄暗い核シェルターで武器を売る親父も、その存在が、あまりにも自然なのだ。

このアンバランスが、プレイヤーにあたかも「転生」したかのような、妙な現実感を抱かせてくれる。だが何よりも生を実感するのは、自分の身を守るものがないという無力さである。

 

例えば、実際ZONEで生活する上で「Fort-12」はあまりに心もとなく感じる。湿気た9×18mm弾では野犬を撃退することすら難しい。そこでどうするか。

近所をうろついていると、仕事を斡旋してくれるシドロビッチという親父がいる。彼曰く、ストーカーが仲間をバンディットから救うために人を集めているという。

なるほど、確かに1人では何も出来まいが、周りの連中に便乗すればメシにありつけそうだ。彼らも自分のことを弾除け程度にしか考えていないだろうが、こちらも存分に利用すれば良い。

そう考え、プレイヤーは華々しい初陣でコソコソと隠れ、味方のストーカーとバンディットが撃ち合ってる間は影に潜み、死体のバンディットからようやく銃らしい銃である、錆びた二連ショットガンを奪い取る。

この瞬間、あなたはようやく、人を殺せるだけの力を手に入れた。つまり、一気に行動範囲が広まり、野犬を恐れなくて良いということだ。

 

そう、この世界で生き残るために何が必要か、言うまでもない。

それは、見目麗しい仲間や、EXPといった不明瞭なリソースの蓄積でもない。

「銃」だ。

強い銃。それと弾薬、ボディアーマー、いくらかの食料と医療キットさえあれば良い。

理論的にはRPGに近い。だがなんと、恐ろしくも冷徹で現実的だろうか。

敵を殺し、より強い銃を持っているなら奪い、弾薬もまるごと剥ぎ取る。

そしてその冷徹なゲームシステムという環境に適応するのは、他ならぬ、かつてプレイやーの住んでいた世界の理だ。

万が一、自分が異世界転生をしたら。その時、本当に頼れるのは、惨めな姿をしてでも生き残りたいという生存欲求と、敵の肉を引き裂くための5.45mm弾なのだと、我々は本能的に知っている。

 

この、何もわからない中で、ただより強い武器を求め、そして生態系の頂点を目指す過程が、プレイヤーにとてつもない実在性を抱かせ、空想と現実の区別を曖昧にする。

『S.T.L.A.K.E.R.』 の本当にスゴイ所は、寝て覚めて起きたら、自分がこんな場所にいてもおかしくない、そう思える程に、世界観に妙な説得力があり、異常なまでの周囲の冷徹さにリアリティがあり、何をしても自由なメカニクスが用意されていることだ。

 

だからこそ、私にとって本作はウクライナ版の異世界転生だった。ある朝、目を覚ますと自分は異世界にいた。悪党と怪物と放射能に満ちた魔境に。

本当にこれはゲームなのかと疑う程、生易しい娯楽ではない。だが一貫した冷徹な現実性と、奇妙なまでの自由度が、プレイヤーに「ZONE」という世界を実感させ、転生させてしまうのだ。

ただ正直、俺は絶対こんなところに転生したくないのだが。

 

 

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