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『FGO』第2部3章「人智統合真国シン」のネタバレ感想・評価

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※ネタバレだらけの感想です

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

力拔山兮氣蓋世

時不利兮騅不逝

騅不逝兮可柰何

虞兮虞兮柰若何

珍しく運営自らシナリオライターを明かした、第2部3章「人智統合真国シン」。

走り終えての感想は、月並みだが「さすが虚淵先生だなぁ」といった所。不満が残る2章に加えると、格段に隙がない。上手く「2部」でやりたいテーマを汲み取って、シナリオにまとめた感はある。

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今回はそこそこ笑えるシーンもある


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秦良玉ちゃんはかわいい

 

物語は、彷徨海で新たなカルデアを作った所からスタート。これでようやく腰を落ち着けられるかと思いきや、コヤンスカヤの陰謀で毒を飲まされ、治癒のために中国の異聞帯である「秦」に降り立つ。

「秦」はこれまでの異聞帯と比べると遥かに平穏で、民は何不自由無い生活を送っているが、生活水準は中世のまま。一方、首都の咸陽は巨大な空中都市が浮遊しており、そのギャップに驚く一行。

よく聞くと、平穏と言っても民は文字さえ知らず、およそ知識と呼べるものは持ち合わせていない。民を蒙昧なままに、権力を皇帝一人に一極集中することで、この異聞帯は成立しているのだった。

とは言え、今回のぐだはその現状に対して困惑する。呼び集めたサーヴァント、別名「叛乱三銃士」は怒り心頭だが、冷静に考えて民が何不自由ない生活を送っていることも確かであり、その点はホームズにも諌められる。

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このどちらが正義なのか、どうすれば良いのか、という絶妙なバランス感覚は、さすが型月の顔の一人であるアルトリアを、ズバリ批判してみせた『Fate/Zero』の虚淵という印象。

2章は、一方的にカルデアがイチャモンを付けて轢き殺してしまった印象で、せめてイチャモンを付けるか、轢き殺すかどっちかにしなさい、という自分は思ったのだが。今回はあくまで理性で、編纂事象と剪定事象をフラットに対決させようとしている。

 

ホームズが言及するように、秦という異聞帯では民は絶対に不幸にならない。何故なら、不幸の根源そのものが、存在しないためである。言うならば、ジェレミー・ベンサムの功利主義を本当に実現した世界なのだ。

一方で、カルデア側の主張は、人間は思考してナンボであり、それによって得られる成長や進化は無視できない、というもの。こちらには、幸福と不幸に振れ幅がある。

で、結局どちらが正しいのかというと、力で勝るカルデアが正しいという物語の帰結になる。

その勝利の切り札は「スマホ」。人が誰しも交信手段を持つということ、すなわち個人が考え、主張し、交流する手段こそが、汎人類史か得た力なのだという。暗殺者のサーヴァント荊軻はこれに毒を仕込み、始皇帝を要塞である聖躯から引きずり出すが、本人を倒すには及ばなかった。

だが、始皇帝はこのスマホを解析したことで、今まで歯牙にも欠けようとしなかった夷狄のカルデアを、自分たちの敵と認めて、カルデアとの正面からの対決に挑む。その結果、始皇帝は敗北し空想樹は伐採される。

何故始皇帝は有利を捨てて正面対決をしたのか。彼は、何故自分たちが剪定事象なのか気付いたためだ。成長を止めて民が幸福になっても、その歴史はやがて袋小路に行き詰まってしまう。自分たちは滅びるべくして滅ぶ歴史だったのだと。

「剪定事象」。その本質故に、どれほど高い城塞があろうと、どれほど強者が立ちはだかろうと、必ず敗北する運命にある世界。これが物語である以上、絶対に勝利できない世界。

「編纂事象」が持つ唯一のアドバンテージの「可能性」を持てなかったがために、あらゆる努力が無為となる運命。だからこそ2部においては異聞帯側の正しさが重点的に描かれる事で、バランスを取っている。

こんな具合に、3章では論理的な正しさ、物理的な強さ、諸々のテーマをギリギリのラインで解決していく。今まであったモヤモヤを上手く解決しており、特に剪定事象に編纂事象が勝る理由を、明確に突きつけたシーンが印象的だ。

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本作で良いなぁと思ったキャラクターは2人。

まず、『Apocrypha』から登場したバーサーカー「スパルタクス」。

本編『Apocrypha』では正直あまり良い場面にも恵まれず早々に退場したが、3章では登場してすぐに

「生き残るべきが汎人類史の側だと決めつけて進むべきではない」

「刮目してこの世界を、民の在り方を見極めるがいい」

と鋭い問いを主人公に投げかけ、決して叛乱は正義による一方的なものではなく、自らの信念に基づくものであると、彼の意外な側面を見せる。

そして、『Apocrypha』では聖杯大戦の兵として発動した宝具が、3章では自分が生前守ってきたような弱き者を守るために使い、満足したように退場する。

絶望的な戦いにおいて、真っ先に主人公に戦う道理を語り、また逆境を跳ね返したスパルタクス。これまで、バーサーカーとしての狂気のみ描かれた彼が、実際の歴史で描かれたような英雄として活躍するギャップが、自分にはストレートに刺さった。

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もう一人が、この3章オリジナルのサーヴァントであるバーサーカー「項羽」。

自らのサーヴァントである蘭陵王より、露骨にこっちを肩入れする芥ヒナコ……。正直わかり易すぎる伏線ではあるが、こうした物語は、かの有名な京劇『覇王別姫』を思わせる。

『覇王別姫』のクライマックスは、「四面楚歌」で誰もが知る、漢軍に包囲されるシーン。「垓下の歌」を詠んで、項羽は敵軍に切り込み、そして虞美人は自決する。(史実でどうなったか定かではない)

ところが、今作での”虞美人”は不死の存在である真祖であり、自決も許されなかった。その結果、項羽の死後も2200年以上も生き延び、今はクリプターとしてこの異聞帯に行き着いたのだという。

この、史実と型月ワールドのギャップも、中々に思う所があるのだが、その実、項羽は天下泰平という目的のため作られた「機械知性」という話もいい。2章では得られなかった、史実と異聞帯の歴史のギャップを、ロマンを交えつつ上手く調節して物語に昇華出来ていると思う。

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ただ全体を通して意外だったのは、所謂「虚淵節」があまりなかったこと。

ライターが発表された時SNSで噂されたような「3節でヒナコの首が飛ぶ」なんてことはなかった。

まぁ、元々虚淵って必ずしも虚淵節を発揮してるわけでなく、同FGOの『AZO』のシナリオも、ごくごく無難な内容だったわけだが。今回は特に他の節との兼ね合いもあるから、菌糸類を尊重した(或いは尊重させられた)と思われる。

なので、全体を通して「2部における1シナリオ」としては完成度も高く、単純に明確な正義のない戦いを、敵味方との対話を通して遂行するという内容としては、よく出来ているけど、逆に言うとそれ以上のものではない。

「まぁこんな感じかな」って印象。特に最後が結構あっさりしていて、「え?これだけ?」と思わなくもない。

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あと、やはり比較してしまうのが2部1章「永久凍土帝国 アナスタシア」の出来の良さ。

アナスタシア、FGOのシナリオの中でも完成度が高かったと思うんだけど、特に「クリプターと、そのサーヴァント」がちゃんと絆を育んでいて、最後に最大の敵として立ちはだかるという展開は、正に「2部」ならではだなと感心したのだ。

これは、正しく2部のテーマである、正統性(レジティマシー)を問う物語だ。

例えば、1部で主人公がティアマトやゲーティアさえ凌いで見せたのは、主人公が人類全てを背負うという、物語として勝利するに十分な正統性を背負っていた故。

しかし、2部からは敵側にも自分と同じようにマスターがいてサーヴァントがいる。条件でいえば、自分たちと全く同じ。そして背負っている正統性さえも同じ。

それでも、自分たちが勝たなければならない、その悲痛さと緊張感が、1部になくて2部にあるものだ。カドックくんが最後に「令呪を以て命ずる、皇帝になれ!」と叫ぶ戦闘は、本当に心を震わせるような衝撃があったのだ。

一方、3章のマスターはどうしても影が薄い。虞美人という人物は凄く良いと思うけど、手持ちサーヴァントは食べるし(そうせざるを得なかったんだが)、恋人は守ろうとして倒されちゃうし、最後はやっつけ気味に空想樹と一体になってしまう、というのは、些か雑な扱いだなと思わざるを得ないのだ。

無論、必ずしも1章のようにマスターとサーヴァントが手を取って対抗する必要はない。だが、あえてそうしないなら、相応の魅せ方がどうしても必要だ。ハッキリ言って、あの原初の神ティアマトを倒したぐだーず一行の前では、単純に強いだけの敵ではやや物足りないのである。

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この一連の流れ、大令呪の意味する所を知った後に読むとグッとくるんだよなぁ