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【評価/感想】『Anthem/アンセム』レビュー 世界最速のハクスラへようこそ

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ハック&スラッシュ、それは醤油豚骨ラーメン

 『Diablo』シリーズなど、敵陣に突撃して目に映る敵を殲滅し、そこから強力なアイテムを略奪しては、また次の敵陣に突撃することを繰り返すゲーム、それをハック&スラッシュという。

 

 このハック&スラッシュというゲームのジャンルをラーメンで例えるなら、醤油豚骨ラーメンである。

 

 塩ラーメンほどに繊細というわけでなく、味噌ラーメンほどにケレン味があるわけでもない。醤油ラーメンのクラシックさが近いと思うが、そこに豚骨を加えた醤油豚骨ラーメンのような、病みつきになるジャンキーさ、そして味の幅広さこそ、ハック&スラッシュというジャンルに近いと言えよう。

 

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みんなだいすきDiablo、これをゲームで例えるなら・・・

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醤油豚骨ラーメンではないか?

 

 ……何の話だったか。あぁ、そうだ。先日発売されたハック&スラッシュの新作『Anthem』の話だった。

 

 『Anthem』は主としてTPSだ。アサルトライフル、機関銃、ショットガン、多様な銃を使って敵を殲滅していく。敵を倒せば新たな武装が手に入り、それでより強い敵に挑む。

 

 中でも特徴は、4種類存在する「ジャベリン」という自動装甲。本作ではプレイヤーはこのジャベリンに乗り込んで、自由に宙を舞い、重火器を撃ちまくるという、生身の人間では到底できない動きで敵を圧倒できる。

 

 ジャベリンは主に、平均的な挙動をする「レンジャー」、迫撃砲や大盾などの重装備で正面から圧倒する「コロッサス」、AoEとサポートに長けたサイキック「ストーム」、圧倒的な機動力で近接攻撃を繰り出す「インターセプター」が存在。どれも一長一短であり、使い勝手も全く異なるため、そのポテンシャルを引き出すには十分な熟練度が問われる。

 

 これらジャベリンを着込んだ上で、プレイヤーは『Anthem』の広大なオープンワールドを探索することができる。『Anthem』の世界は人類が入植しつつある惑星であり、そこには人の何倍も大きな原生生物や、何者かが残した謎めいた遺跡、バカげたほどに背の高い崖や山岳が点在している。「ジャベリン」は正に、こうした厳しい環境を生き残るための防護服でなのだ。

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「ハクスラ・シューター系」の発展と課題

 さて、最初に話した「ハック&スラッシュは醤油豚骨ラーメン」という話を覚えているだろうか。

 

 ゲーマーはハック&スラッシュが基本好きだ。醤油豚骨ラーメンが好きだと言う人と同じぐらい、大体みんなハック&スラッシュは好きである。ルールがわかりやすく、マルチプレーにも対応し、延々と時間を注ぎ込めるジャンキーさは多くのゲーマーを虜にした。無論、私もその一人である。

 

 ところがどっこい、いくらジャンキーなハック&スラッシュといえど、ものの良し悪しというものがある。醤油豚骨ラーメンは味がジャンキー目なためにごまかしやすいのと同じで、ハック&スラッシュもいくら人気だからといって、クオリティも全体的に雑で、しかも進歩がないゲームは数多くあった。

 

 中でも、『Anthem』のようなFPS・TPSらのシューターにハック&スラッシュをのっそりと乗っけた「ハクスラ・シューター系」に筆者は少し思う所がある。

 

 『Borderlands』辺りが開拓し、そこからBungieの『Destiny』、Ubisoftの『Division』、F2Pタイトルの『Warframe』など、最近一気に増えだしたジャンルだ。ただでさえジャンキーなハック&スラッシュに、更にみんな大好きなシューティング要素を加えるという、約束された勝利の中毒性故にセールスも良い。さながら中毒性の高い醤油豚骨スープに、更に太いストレート麺を加えた「家系ラーメン」に近いといえるだろう。

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みんな大好きハクスラ×ウィ・ラブ・シューター、この組み合わせは正に・・・

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家系ラーメンである。

 

 これら「ハクスラ・シューター」の作品は、もうジャンルの組み合わせからして「面白いに決まっている」というベースが基幹にあり、それも事実だと思う。だが、個人的にはこれら多くのタイトルが、どっちつかずで雑味を多く感じた。具体的には、TPS・FPSとして遊ぶにはやたら敵が硬く爽快感に欠けるが、ハクスラとして遊ぶには視野の狭さが厄介でビルドの幅が狭いのも気になる、という具合だ。

 

 『Anthem』はこういった疑問に対し、少なくとも筆者個人が満足のいく水準で、「ハクスラ・シューター」を体系化している。それこそが、ここまで述べた「ジャベリン」そして「オープンワールド」の組み合わせだ。

 

世界最速のハクスラへようこそ

 先述した通り、『Borderlands』ら「ハクスラ・シューター」の課題は中途半端なことだ。シューターとしては狙い撃つ快感がなく、ハクスラとしては快適さと戦略が犠牲となりがち。

 

 『Anthem』はそこで「ジャベリン」を投入する。「ジャベリン」には全てジェットパックが装備されており、自由自在に空を飛ぶことができる。この「飛ぶ快感」は本当に素晴らしいものであり、恐らくBioWareも相当念入りに調整したに違いない。飛んでいるだけで最初は楽しいほどだ。

 

 だが、単に飛んで楽しいだけではない。この作品にはオープンワールドがある。それも立体的なオープンワールドだ。険しい山岳が連なり、危険な原生生物が闊歩するのだが、ジャベリンに乗っている限り、これらの驚異を全て飛んで回避することが可能なのだ!

 

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 故にジャベリンの立体的な機動力はこの上なくありがたく感じるだろう。ジャベリンは『Anthem』の美しくも厳しいオープンワールドによって輝くのである。

 

 そしてこれが、まず既存のハクスラに対するカウンターの一つだ。既存の見下ろし視点のハクスラは確かに視野が広いが、あまりに画面が代わり映えせず何時間も遊ぶと眠くなってくる。この作品はハックやスラッシュをする間に(戦闘時以外でも)、このジャベリンによる立体的な空中浮遊を体験させることで、プレイヤーに常に新鮮な感覚を与えてくれる。

 

 それだけではない。このジャベリンの機動力は戦闘にも大いに活かされる。そもそも、「ハクスラ・シューター」の一番致命的な部分は、戦闘しかしないハクスラなのに、肝心の戦闘がそんなに面白くない点だ。敵が固く、しかし敵の攻撃は痛い。だからカバーに隠れてバリアを回復しながら、チクチクと敵に弾を撃つ作業になってしまう。

 

 だが『Anthem』にはジャベリンがある。危険になればすぐに離脱し、好機と見れば空中から一撃をお見舞いし、仲間が倒れればすぐに飛んで回復できる。全ての動作が、「疾い」。火力や防御は工夫しなければならないが、少なくとも機動力はある。行きたい所に、いつでも行ける。物量と性能で勝る敵を、機動力を用いた戦略で翻弄するのだ。

 

 この圧倒的な立体機動力こそが、本作を「世界最速のハクスラ」として定義している。これまで数多くの「疾い」ゲームをプレイしたが、『Anthem』はその中でも上位に位置する。ましてハクスラの中では尚更だ。「ハクスラ・シューター」は無論、ハクスラ全体の中でも本作ほど早く、移動することに楽しさを見出した作品は希である。

 

 移動、戦闘、いずれにおいてもジャベリンの疾さが活かされる。プレイヤーが何かをしたいと思った時に、すぐその行動を実現できる機動力。これが「世界最速のハクスラ」なのだ。

 

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 因みに、ジャベリンの中には機動力に差があり、最速の「インターセプター」に対して「コロッサス」は鈍重だが、それでも空中の移動には困らないし、何よりその分与えられた武装の破壊力が病みつきになる。この思い切ったジャベリンの描き分けも『Anthem』の魅力と言えよう。

 

(無論、これまでのハクスラ・シューターが全部ダメだったと言う気はない。各々が工夫していたのは事実だし、それぞれ魅力はある。だが『Anthem』は「ジャベリン」を中心に、根本的にハクスラとしてのゲームデザインを一から構築し、実にユニークな体験たらしめている点は注目に値する。)



作り込みは浅い……だが

 

 気になる点があるとすると、まず全体的に作り込みの浅さが否めないという点。既に体験版、ベータの時点で、鯖は落ちる、ゲームはラグると不具合が連発しゲームメディアの格好の標的となった『Anthem』だが、あれからマシになったといえ、動作は未だ不安定だ。

 

 何より、コンテンツのバランスやボリュームも満足の行くクオリティとは言えない。特にオンライン周りの環境は何年前だというレベルに古臭く、放置してるプレイヤーをキックできないとか、まともなオンラインロビーがない割に一期一会で遊べるシステムではないとか、『Destiny』辺りでも批判された部分がまんまついて回ってる。意図的な仕様かもしれないが、ハッキリ言ってこうした甘さでだいぶ損をしている。

 

 とはいえ、『Anthem』は今後定期的なアップデートを予定しているし、完全新規タイトルということもあって将来性はある。こうした作品に一番必要なのは、ディティールよりも何年遊んでも飽きないベース部分。つまりジャベリンを使ったハンティングがよく出来ている限りは、そこまで心配しなくて良いだろう。



BioWareへの「Anthem(賛美歌)」として

 最後に、余談となるがこの作品を作ったBioWareの話をしたい。

 

 BioWareは洋ゲーファン以外には案外知られていないが、海外ではかなり有名なディベロッパー。古くは『Baldur's Gate』等のCRPGで知られ、2007年発売の『Mass Effect』や2009年発売の『Dragon Age Origins』で、これまでのRPGにないシネマティックな表現と壮大かつ論理的な世界観によって、世界的に大ヒットを飛ばす。

 

 ところが、この先が問題だった。続編のクオリティは徐々に曇りだし、三部作の結末を飾るはずだった『Mass Effect 3』は酷評され、DLC(無料)で本当の結末を描くと発表。これにはファンも激怒し、フォーラムも炎上する事態となる。この上、BioWareの共同設立者のRay MuzykaとGreg Zeschukが退職し、いよいよBioWareの信頼も揺らぎ始める。

 

 BioWareの悲劇はまだ続く。『Dragon Age』シリーズの最新作『Dragon Age: Inquisition』は意欲的な部分が多いものの評価は芳しくなく(筆者は結構好き)、『Mass Effect』の最新作『Mass Effect: Andromeda』に至っては四方八方からボコボコに批判されるクオリティでリリースし、新規IPとして開発していた『Shadow Realms』は開発中止される憂き目に。

 

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このデフォ顔はmeme化する程に煽られた。

 

 こうしたBioWareの著しい没落ぶりには、少なからずBioWareを買収した、アメリカで悪名高いパブリッシャー「EA」の存在を想像せずにいられない。ディベロッパーの意図などお構いなしに、セールスを突きつけては無茶な変更を強要する、事実そういった続編を無数に出してきたEA。特に2010年前後はゲーマーのヘイトを買いまくっていた。

 

 そこで、改めてこの『Anthem』をプレイしてみよう。確かに粗の目立つ作品ではある、だが立体的かつ重厚な世界、ジャベリンを使った骨のある戦闘、横にも縦にも自由に動ける爽快な移動。ゲームの最も根本的な部分に、BioWareがかつて評価されたような、彼らの情熱と革新が秘められている。

 

 悪名高いEAだが、今月リリースされた『Apex Legends』も素晴らしいクオリティだったのは事実。ディベロッパーたちがEAとの付き合い方を覚えたのか、EAもようやくディベロッパーを尊重するようになったのか、詳しいことはわからないが、少なくともEAからちゃんと身のあるゲームがほぼ同時に2本リリースされることを、我々は歓迎するべきだと思う。

 

 そして何より、あれほどの苦境を経ながらも、折れずに自分たちのこだわりを貫いて『Anthem』をリリースしたBioWareには敬意を表したい。即ち彼らへの「Anthem」。それを抱いて本作をプレイしよう。


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