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【評価/感想】『Metro: Exodus(メトロ:エクソダス)』レビュー 死に物狂いでミュータントと戦った報酬が幼女の笑顔の世紀末FPS

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アルチョムの冒険譚

 『Metro: Exodus』は核戦争によって崩壊したロシアで、盗賊やミュータントと戦いつつ、その報酬が幼女の笑顔だけという世紀末FPSだ。

 

 ロシアの作家、ドミトリー・グルホフスキーがウェブに公開した小説『Metro 2033』。これを原作として、ウクライナ4A Gamesが作ったゲームシリーズが『Metro』シリーズである。

 

 舞台はロシアのモスクワ。核戦争によって地表は完全に崩壊し、人々は総延長約300kmのモスクワ地下鉄へ避難し、それぞれの駅を拠点として活動していた。そんな中、小さな駅で幼年期を過ごした青年アルチョムは、日毎に悪化するミュータントの襲撃を都市部へ伝えるべく、地下鉄を辿る旅を開始する・・・。

 

 前作に当たる『Metro 2033』、及び『Metro: Last light』はこんな具合にアルチョムが奮闘する姿が描かれてきた。今作『Metro: Exodus』では慣れ親しんだモスクワから「脱出(Exodus)」し、新たな冒険が始まる。

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シリーズ恒例、異様に気合に入ったメニュー画面

 

原作小説を持つ重厚な物語と、STALKER開発スタッフによるハードな戦闘

 先ほど述べた通り、『Metro』シリーズはグルホフスキーの小説を原作とするビデオゲームだ。そこで本シリーズは小説の重厚な世界観を再現するために、あらゆる部分においてリアリティを追求している。

 

 例えば、暗い地下道を探索する上ではフラッシュライトが手放せないが、つけっぱなしにしていると電池切れを起こしてしまう。ではどうするのかというと、手元にある充電バッテリーを何度も握ることで、再びライトが復活するという具合だ。

 

 それ以外にも、空気の悪い環境ではガスマスクが手放せないが、ガスマスクを使う度にフィルターが消耗し、一定時間で取り替えなければならず、更に新しいフィルターをどこかで入手する必要があったりする。

 

 こう聞けば、ただただ面倒臭い内容に思えてくるが、これらの面倒な動作こそ、壊れかけの装置を使っている己の貧しさや、常に身を守らねば行きていけない核戦争後の世界の厳しさを、常に説得力のある形でプレイヤーを伝え、小説が持っていたメトロでの苦しい戦いをうまくゲームとして再現している。

 

 これに加え、原作小説ならではの引き込むような物語がプレイヤーを一層ゲームの世界に引き込んでいく。アルチョムの精神的な成長、変わらない人類の衝突と異種との和平、暴力の不毛さと誘惑。二項対立する複雑なテーマが、そこらのゲームにはない豊饒な語彙によって語られていくために、物語だけでも「たかがゲーム」と侮れない充実感を得られる。

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銃は細かくカスタマイズ可能。にしても、レシーバー剥き出しで動くとかアーカー先輩まじぱねーっす。

 

 こうした魅力は、同じ小説を原作とする『Witcher』シリーズにも通ずる部分はあるだろう。

 

 無論、ただ文学を味わうモヤシ野郎だけでなく、純粋に血を求め知略を巡らせたいゲーマーにとっても、『Metro Exodus』は優れたゲームだ。

 

 なんといっても戦闘が楽しい。もっぱら限られた物資と数の優位によって、このゲームは基本的にステルスプレイ、つまり敵に見つからないプレイを推奨される。この時、アルミ缶を投げて敵を誘導する他、光を消して暗闇に潜むことで敵をやり過ごしたり(『Splinter Cell』のように)、弾薬さえあるなら真正面から敵とドンパチやっても全く構わない等、とにかく自由な戦闘スタイルが許容される。

 

 また敵のAIがかなり秀逸だ。所謂『Far Cry』に近い作りで、ステルスなのだが一度発見されても、遮蔽物や暗闇を使って敵の視界から消えれば、ちゃんと敵は見失ってくれるし、また怪しいところを発見すればちゃんと探索に来てくれる。

 

 昨今では正直ヌルすぎるステルスゲームが増えたと思うが、『Metro』はそこそこシビアであり、ちゃんと敵は遠くからプレイヤーを発見するし、2、3発被弾すればアルチョムは死んでしまうので、プレイスタイルの自由度が残されていながらも常に緊張感がある。

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ミュータントと戦った報酬が幼女の笑顔

 ここまでは『Metro』シリーズ恒例のフィーチャーを説明してきたが、改めて本作『Metro Exodus』ならではの魅力を掘り下げていこう。

 

 『Exodus』の魅力、それは何よりもマップの拡張、要するに「オープンワールド化」である。これまでの『Metro』は細長い一本道の地下鉄を踏破する、かなりリニアなレベルデザインだった。対して『Metro: Exodus』では機関車を入手し、モスクワを脱出した先の広大なロシアを冒険することになる。

 

 オープンワールドと言っても、『GTA』シリーズのように全てのマップが一つに繋がっているわけでなく、チャプターごとに中規模のマップが登場し、それを次々に攻略していくというもの。物語の進行自体はリニアなものの、ミクロなゲーム進行はプレイヤーの裁量に委ねられている。

 

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 具体的には、アルチョム一同が機関車で進んでいると、巨大な鉄橋が現地民によって封鎖されている。この鉄橋を占領するために、プレイヤーは現地の人間を味方につけたり、進路を妨害する悪党を排除したりして、最終的に鉄橋を突破して次のレベルへ向かうといった具合だ。

 

 これまで『Metro』シリーズといえば、物語や戦闘こそ評価されていたものの、リニアなレベルデザインには批判も多かった。

 

 確かに、地下鉄を舞台とする脚本のアウトラインを、一本道のゲーム進行に組み込むのは面白い試みだが、いささか狭っ苦しい印象を与えていたのは否めず、またマンネリ感もあった。また、特にサイドクエストやイベントがあるわけでもないので、せっかく人々で賑わう地下鉄の怪しいバラックも単なるハリボテで、大半のNPCには話しかけることさえ出来なかった。即ち、プレイヤーが直接この『Metro』の世界観に介入している実感が、中々湧かなかったのである。

 

 対して『Metro: Exodus』は素晴らしい。単に従来の『Metro』と比べて自由にマップを探索できるようになっただけでなく、広さでこそ現代のAAA級と比べると狭いが、その分、崩れかけの廃墟、先に進むことを思わず躊躇うトンネル、美しい自然が映える昼間と、心細さにいちいち休憩してしまう夜間と、「写実性」においては圧巻。決して無駄なスペースがなく、全ての建物にも実在性を感じる、つまり良い意味でゲームらしい無機質さがない。

 

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フィールドにはセーフハウスが点在しているのだが、一つ一つの描き込みが尋常じゃない。

 

 ゲームの進行としても大変優れている。まず『Metro: Exodus』では、わざとらしいイベントも報酬もない。ここの鉄塔を鎮圧したらマップが広がるぞとか、ここの基地を鎮圧したら500Expもらえるぞとか、そういった「ゲーム的な尺度」が徹底して排除されている。

 

 代わりに、あくまで仲間が「おい、あの悪党共が音痴のくせにギター持ってたぞ。俺のほうがうまく弾けるし、気が向いたら持ってきてくれや」と気さくに話しかけるなど、とにかく「広いマップでプレイヤーがどんな行動をするか」に対して、あくまで人間の情や義理が報酬となってくる。

 

 無論、結果的に優れた装備やリソースを手に入れることもあるのだが、徹底してプレイヤーのモラル、あるいは気まぐれに委ねられ、その結果として、少し充実した装備や見返りを手にいられるという点が、原作小説の『Metro』らしいこだわりだ。

 

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デーモンと呼ばれる凶悪な飛行型ミュータントを倒してテディベアを手に入れた。報酬:幼女の平穏

 

 もちろん、戦闘面においても広がった地形は存分に活用できる。これまではステルスプレイもランボープレイも、決められたルートで正しい行動をさせられている感が拭えなかったが、今回では敵を攻めるにしても侵入ルートも自由だし、自分のリソースと相談して敵自体を避けるプレイも許される。その上、『Metro』ならではの秀逸なAIも野外戦では存分に活躍してくれる。

 

 総じて、オープンワールドにおける冒険は、これまでのリニアな、「やらされている感」が強かった冒険で失われていた「行間」を補完している。

 

 これまでの『Metro』がアルチョムの背中を置い続けるだけのゲームだったのに対し、今作は自分がアルチョムとなって、彼がどんな場所で、どんな戦いを生き延び、どんな感想を抱いたのか、正にゲームならではの手法でロシア文学『Metro』を味わうことができるのだ。




『S.T.A.L.K.E.R.』を超える

 ここまで意図的に触れていなかったが、『Metro』という作品はあるPCゲームと比べられ続けてきた。同じウクライナGSC Game Worldが作った、カルト的人気を誇るFPS『S.T.A.L.K.E.R.』である。

 

 『S.T.A.L.K.E.R.』は2007年に発売されたFPS。チェルノブイリ原発周囲を舞台に、A-Lifeと呼ばれる斬新なAIシステム、物資や弾薬が限られた厳しいサバイバル、複数の組織による対立、ストルガツキー兄弟の小説を思わせる深遠なナラティブが評価され、今でもファンの多い作品だ。

 

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 このように、あらゆる部分で『Metro』と『S.T.A.L.K.E.R.』は似ている。それもそのはず、実は『S.T.A.L.K.E.R.』開発途中でGSCから抜けたメンバーが『Metro』の開発に携わっているのである。両作品は複雑な家庭環境で生まれた、複雑な兄弟と言えよう。

 

 ところが、『Metro 2033』は兄である『S.T.A.L.K.E.R.』と常に比較され続けてきた。リニア故に掘り下げた物語や、あえて面倒な動作を描写する姿勢など、『Metro』ならではの強みは多かったものの、『S.T.A.L.K.E.R.』の方がオープンワールドで自由度も高く、なまじこちらが先に発売されたので、ガッカリ感が拭えなかったのだ。

 

 あれから約10年。かすかな噂と発表を除いてすっかり『S.T.A.L.K.E.R.』続編の音沙汰がなくなった頃、『Metro: Exodus』はついに偉大なる兄『S.T.A.L.K.E.R.』に追いついた。

 

 徹底した写実的な描写で再現される、ロシアの広大な土地。そこで繰り広げられる戦いと、自由なゲームの進行。いや『Metro: Exodus』はこの上に『Metro』ならではの物語及び世界観への尊重、そして「ゲーム臭さ」の排除に伴って、『S.T.A.L.K.E.R.』を超えたとさえ言って良いと思う。

 

(もちろん、『S.T.A.L.K.E.R.』には『S.T.A.L.K.E.R.』の魅力があるのだが。)

 

 4A Gamesにとっても、さぞ長い旅路だっただろう。だがその果てにこの『Metro: Exodus』が生まれたことを考えると感慨深い。ちょっとロードが長すぎると思うが、この寒々しいロシアの大地にAKを持って立てること、そしてアルチョムの願いを叶える物語を見届けられること、『Metro: Exodus』は紛れもなく傑作である。

 

 彼らはようやく、兄弟の呪縛から「Exodus」したのだ。

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