ゲーマーとギャル。
10月3日(木)に開催された「ゆるふわeスポーツ座談会」の第二回目で、およそ火星人と木星人ぐらいに遭遇することがまずないであろう両者が邂逅した。
結論から言うと、これを現場で見れなかった人がいたのは本当に惜しいと思うほどに素晴らしい企画だった。「心のNDA協定」が敷かれ(ただし、この”ギャル企画”に関してはむしろ拡散推奨)、配信もされないこの座談会で一体何があったのか。
現場で「eスポーツおじさん」というふざけた名前のレッドブルカクテルを飲みながら、一部始終をフラフラ観ていた筆者がレポートしたい。
そもそも、「ゆるふわeスポーツ座談会」とはウェルプレイドの谷田さん(@akahossy)が主催する座談会だ。
谷田さんの突発的な呼び込みと思いつき(割といつものことだけど)で始まったこのイベントは、異なるゲームタイトルや職種など普段中々交わらないレイヤーのesports関係者が気軽に意見交換できることもあって、口コミで開催する毎に来場者が増加。
10月の第二回ではキャパオーバーを見込んで、倍以上に広いハコである新宿のロフトプラスワンで開催されたが、それでもパンパンで立ち見まで出る盛況ぶりであった。かくいう私もこの奇妙な空間が気に入り、第0回を除いて毎回足を運んでいる。
しかしながら、私はこの「ゆるふわeスポーツ座談会」に少しだけ不安を抱いていた。ゲームコミュニティが往々にしてぶち当たる壁、つまりマンネリ化とそれに伴う「ムラ社会化」がうっすらと感じられたからである。
実際の所、アングラな会場でアルコールも開放されていることもあってか、来場者の平均年齢は高めで男性が過半数を占めている。来場者のレイヤーも偏りがちで、そのために話題となるのは特定の業界や業種への愚痴が増えていたのは事実だと思う。
この大会につけられた「ゆるふわ」という形容詞は皮肉のつもりだったのだろうけど、実際はあまりゆるくもふわくもなくて、むしろ少しトゲトゲした印象を受けたのである。
だけど、さすがというべきかこの第2回は全く違った。
まず最初に行われたのが、弁護士である松本祐輝さん(@ym_gamelaw)と染谷隆明さん(@somerson29)を呼んでの、例の「JeSU騒動」トーク。JeSUを中心とする法律や制度の問題をそれぞれ整理しつつ、弁護士のお二人が半分ジョークを交えながらも極めて客観的かつ建設的な意見を取りまとめていた。
まずこれだけでも非常に有意義な座談会だったと思う。基本的に非常にビビッドな話題で、ネットで記事を書こうものならマッハで燃やされかねないネタなだけに、「歌舞伎町のライブハウスで」「谷田さんとkuroebiさんの絶妙にゆるい進行で」という2つがあった上で、弁護士お二人の解説が生きたんだろうなぁと。
実際のところ、私もこの問題はかなり長いスパンで自分の見解を記事にしたけど、さすが松本さんと渋谷さんと言うべきか。非常に学ぶべきところが多かった。
けどそこからが面白い。次に始まったのは「ゆるワングランプリ~誰がesportsの魅力一番伝えられんねん!~」という企画。
めちゃ有名なすごい人たちがギャルの心を掴むために戦っております!!!#ゆるふわeスポーツ座談会 #ギャルふわ pic.twitter.com/yY9IuXaRxR
— ウェル子@ウェルプレイド公式🎮 (@wellplayedinc) October 3, 2019
esportsどころかゲームもあんまり興味ない、基本的に夜はクラブやバーで働いたり遊んでますってギャルを4人集めて、彼女たちに第一線のゲーマーが「esports面白いよ!」ってプレゼンするらしい。
ごめん正直に言う。最初はかなり「キツい」と思った。まず最初に拍手しながら「ギャル入場!!」とかやるわけなんですけど、全体的にノリがゴリゴリのホモソーシャルで。もう完全に夜の飲み屋やんって。
けど、こっからがすごかった。
まずギャルがワ―っと入場して席についたら、今度はギャルにプレゼンするゲーマーたちが煽られながら入場してくる。pontaさん、むじょるさん、なんとかキララELさん、やなけんさん、はるかさん。やっぱり苦笑いしながら入ってくる人もいて、これからどうなっちゃうんだろうって、僕は座って見てるだけなのにヒヤヒヤしてた。
すると、トップバッターのむじょるさん(@mujol_sv)が「シャドバプロリーグはカイジの鉄骨渡り」と、緊張の色を全く見せないまま、いきなりすごいネタをブッこんできた。
「真面目にシャドバの面白さを語っても普通わかってもらえないと思う」「だからカイジみたいに選手が破滅するところを上から見るのが面白いんだ」とシャドバの面白事情を話されるんだけど、その合間合間にプロゲーマーがリスクを賭けても挑戦するだけの魅力があるんだって訴求が入ってきて、一気に場があったまる。
早い話、ゲーマーというか業界人あるあるみたいな話題なんだけど、むじょるさんの話し方が本当にうまくて、あくまでブラックジョークとして流しているんだけど、プレイヤーが心の底で持ってる「それでもやめらんねえんだ」という本音が伝わってくる。
残念ながら、その「濃さ」故にギャル陣の評価はほどほどだったけど、代わりに会場にものすごく響いた。この瞬間、一気に雰囲気が変わった。ダラダラしつつ壇上を見てた100人近いゲーマーが、ドッと温まったんだよね。この状態ならどんなプレゼンが次来ても、絶対に滑らないなって流れになった。
次は、全身おしゃれで温和な表情を絶やさないやなけんさん(@yanaken_games)が、やっぱ女性にesportsアピールするなら「イケメン」と「金」じゃない?って超カジュアルなノリが入ってくる。
これにはギャルも素直に笑ってるし、会場もむじょるさんが温めたおかげでずっと笑いが耐えない。
やなけんさん、『Hearthstone』では誰もが知るすごいプレイヤーなのに、肝心の『Hearthstone』の話はほぼ封印して、本当にどんなにゲームに興味がない人でも思わず耳を傾けたくなるキャッチーだけどコアなプレゼンをされていて、ちゃんと「外」に向けてesportsをどう発信するか考えられているのだなぁと。
さて、ここまで会場のゲーマーにウケたむじょるさん、女性陣も関心を抱いたやなけんさんと、方向性こそ違えど「やりたいこと」を出し切った感のあった第3ラウンドに、あの男は来た。
クラクラ界は無論、esports業界においてメディアとして彼ほどのエンゲージメントを持つ者はいないであろう、pontaさん(@claclaponta)。常に読者の予想を欠くメッセージを発信し、弊紙が開催した「ゲーム批評祭」でも堂々の入賞を果たした彼のパフォーマンスが素晴らしかった。
まず「eスポーツといえばイケメンや美女を期待しませんか?」とやなけんさんのプレゼンに被せに行ったと見せかけて、実際に自身も得意とするクラクラのesports展開に言及。しかし実際には美女だけではなく、年齢や人種を問わず実力のある女性プレイヤーがピックアップされている現状を紹介し、「そもそも、外見や性に囚われずにバチバチにやれるからesportsは魅力的では?」と、バッコーン!とカウンターを当てていくわけですよ。
この爽快なプレーに思わず実況陣(?)も「これはもうesportsでは?」「メタを読み尽くした上でのカウンターとは」と絶賛。会場も大盛りあがり。ギャル陣も拍手喝采で堂々の第一位を獲得していきます。
(ご自身のnoteにプレゼンまとめられてます)
「流石にこれ以上はもう湧かないだろう」そう誰もが落ち着き始めた時、なんとかキララELさん(@nantoka_el)がまた会場を湧かせるのなんの。
現役モンストプレイヤーでもあるなんとかキララさんは、これまで以上に軽快なトークで場を暖めつつ、それでいて完成度の高い資料で視覚的にもリード。
方向性としては、むじょるさんと同じくして業界を深く掘り下げる内容であるものの、他シーンにも通用する「翻訳」が非常にうまい。おそらく今回の登壇者の中で最もレイヤーが被っていない『モンスト』シーンを代表しながらも、それを逆手に取るような人当たりの良さでグイグイ引っ張っていく。
そして最後に登壇したのが、はるかさん(@haruka__games)。「自分はesportsというカテゴライズはそこまで……」と少し距離を取りながら、「それでもesportsが良いと思える瞬間もあった」としてピックアップしたのが、『League of Legends』の2017年世界大会。
テーマソング『Legends Never Die』のライブに始まり、エルダードレイクの迫力満点の演出というオープニングセレモニーを動画で紹介しつつ、伝説的プレイヤーFaker率いるSKTが、宿敵SSGを相手に陥落するその瞬間をドラマチックに紹介。
そう、今回はるかさんは非常に真面目だったのだ。ここまで4人がアプローチを変えつつ、ユーモアとレトリックを交えてどこまで「わかりやすくするか」に特化したのに対して、はるかさんはあくまで取り上げる内容こそシンプルながら、徹底して自分たちが感動した要点を熱くトコトン語る。
その姿が、これまで散々笑ってきたオーディエンスの心に刺さったのだろう。そうだ、とどのつまりゲーマーとはこういうものなのだ。あれこれ妥協点を探っていくけど、それがまともにできないからゲームなんてずっと遊んでるんだと。
散々飲んで食ってを繰り返した宴の後に啜る、クラシックな醤油ラーメンのようにはるかさんのプレゼンが我々の心に染み渡った。
だが何より面白いのは、これまでesportsに興味ないと言っていた「ギャル陣」が一番評価したのがこのはるかさんのプレゼンだったと言うこと。何ということだろう。とどのつまりギャルもゲーマーも、「戦う人間は、勝利を掴んでも敗北に屈しても美しい」ということに当然共感できたのだ。
この一つの境地は、はるかさんだけではなく、むじょるさんから続く試行錯誤の連続の果てに辿り着いたものだ。「誰がesportsの魅力一番伝えられんねん!」という、esportsの業界人は無論としてプレイヤーから観戦勢までずっと悩み続けてきた事柄の答えが、ここで出たのである。
驚くべきことに、この5人のプレゼンの順番は完全にランダム(のはず)だった。しかし、これまで通りのコンテクストで試すか、新たな視点を取り入れるか、多様性で攻めるか、ユーモアで浮かせるか、いややはりどストレートを投げてみるか、そういう漢たちの挑戦が2時間にも満たない地下のライブハウスでの演目で実証されていくのは、もうほとんど奇跡にも近かったと思う。
だからこそ、このうちどれか1人のプレゼンでも欠けてはこの「座談会」は成功しなかった。
esportsは綺麗事だけではないが、さりとて悲劇だけでもない。ルックスで人を惹き付けることもあれば、同時にダイバーシティを実証することもある。男同士のときに滑稽なまでの真剣勝負が、何百万人の心を揺さぶることもある。
これら全てが、紛れもなくesportsだ。
改めて、この座談会は非常に実りのあるものだったと思う。主催の谷田さんいわく、西村さんとほとんど思いつきのような形で始めたと言うが、呼んだ相手がゲームタレントの女性やお笑い芸人の男性ではなく、本当にゲーマーと違う価値観で生きるギャルというのが最高だったと言わざるを得ない。
今回、プレゼンした5人はおそらく全員が「ギャルに伝える」という点で頭を抱えたに違いない。だからこそ全てのプレゼンがネットではまず見れない、おそらく初めて見たであろう、わかりやすさ、面白さ、情熱と説得力に満ちていたのである。
それでいて、プレゼンをした全員がちゃんと「ギャル」という人々に対して、「別の世界で別の仕事をする別の価値観を持つ人」としてちゃんと正面からコミュニケーションを取っていたことが本当にすごい。決してギャルを舐めてないし、逆にビビってもなかった。
最初、私はこの座談会が少しずつ孤立していくのではないかと懸念したとお話した。しかしながら、それは完全に私の早計だった。今回の座談会はむしろ日本のどのesportsコミュニティ・イベントよりも開放的だったと言えるだろう。
それと同時に、ギャルになんとかしてesportsを観戦してもらおうとゲーマーがあの手この手でプレゼンする構図自体が、恐らくどんなジャイアントキリングにも勝る名試合としてesportsであったのである。
これは来たかもしれん……、本物の”””元年”””がよ……!