今年の5月から募集を始めてから、はや3カ月。随分とお待たせしてしまったが、「ゲームへの愛を語りまくりな祭!」という副題通り、本当にゲームが好きなんだなぁと思わせる批評ばかりが集まったこと、そしてそれらを執筆して頂いた”批評家”の方々には感謝する他ない。
校長先生みたいにあれこれ口上を並べても仕方ないので、さっそく結果から話そう。
J1N1賞:
『killer7』 著/slaughtercult
J1N1(@J1N1_R)
オタク
この批評こそ。そう思った理由たった一つ。この批評だけはどう真似しようと、自分には真似できないだろうという、そういう次元にあるからだ。
内容として、例えば他に投稿された批評のように、鋭い世界観の考察や、ゲームデザインの研究があるわけではないし、とんでもなくわかりやすいわけでも、盲点を気付かせるわけでも、そもそも批評とは全く無関係な方向へゴーしてしまってるわけでもない。
だが、文法が違う。些細なリリックの使い方から、そのセンテンス、コンテクストに至るまで、明らかにこれは『killer7』を作った須田剛一リスペクトのそれである。特に、今まで話していた内容を唐突に振り切って、また別の話を始めるのが最高に須田先生っぽい。
「『ハーマン部屋』と呼ばれるセーブポイントは、非常に象徴的な空間だ。
TVを用いた人格交替、血液の精製と人格の意識改革(レベルアップ)。
しかし謎の空間である。論理を飛び越えた超現実性の一端が表れている。」
昨今、ウェブにおいて欠かせないミーム。誰かの言葉に共感し、それを皆で共鳴することは楽しい。だがそれがワードになり、センテンスになり、コンテクストになると特段に難しくなる。決められた単語をただ真似すればいいのでなく、一体どういうセンスでその言葉なのかを選び抜くのは、文学でいうミメーシス。極めて高度な技術なのである。
例えば、
「シンプルイズベストが徹底している。重要なのは、会話と血液だけだ。
装弾数は有限だが、所持弾数は無限……残弾に気を配る必要もない。
敵を倒すのはストーリーを進めるため。その基本が実に徹底している。」
これなんかは凄いんだよね。当たり前だけど『killer7』にこんな台詞は出てこないけど、限りなく出てくるような台詞なんだよ。
それでいて、完全に批評として、「ゲームについて伝える」という要件も満たしている。「重要なのは、会話と血液だけだ。」痺れた。実際そうだ。
いやむしろ、ここまで完璧に須田剛一氏のミメーシスを実現した文章だからこそ、いやむしろ何よりも『killer7』というゲームについて的確に伝わる。私は既にこの作品をプレイした者だが、読んでるだけでもう「追体験」する域だった。あの血と煙の画面が、写真一つない文章から次々に惹起され、網膜に映し出されんばかりなのである。
これはゲーム批評祭の企画発表の段階でも書いたけど、今ゲームのテキストはかつてない危機に瀕している。動画という媒体によって、文字よりも遥かに合理的に「ゲームを伝える」という目的が達成できるようになった。それは事実であり、数多のゲームレビューを読むよりもゲーム実況を観た方がよっぽど早く理解できる現代だからこそ、私は批評家」自称したうえで、そこに抗おうと決意を固めたのである。
だが、このslaughtercultさんの批評を読んで、正直に言ってかなりショックを受けた。このレベル、この次元、私が到達しなければならないのは、正にこれだと。もちろん須田剛一というクリエイターがかなり言語にこだわってゲームを作る人だからこそ、こういった文章が成立するのもあるんだけど、その精神から言って私にはかなり衝撃的だったし、似たようなことをやってる人もほとんどいなかったと思う。
最後に。
「私は須田ゲーの重篤患者ではないし……(中略)」
嘘つけ。
ゲームキャスト賞:
『Capitalism 2』批評 著/ponta
ゲームキャスト(@gamecast_blog)
主にスマートフォン向けゲームを紹介するサイト「ゲームキャスト」。
様々なメディアでもライターとして寄稿し、個人規模のゲームメディアでは最大手級のフォロワーを抱えながら、同時に独立した目線での鋭い発信も行う。
アメリカのMBAの授業でも使われているほど優れた経営シミュレーター」など実際に興味を引くワード、テンポが良い文章など、良いところはいくつも挙げられますが、表彰したいのはそういった理由ではありません。 文章を読んだあと実際にゲームを買いたくなり、遊んで、文章に通りの体験ができて満足したからです。
私は、自分の好きなゲームには売れて欲しい。だますことなしに好きなゲームを推し売れる文章があれば、読者は次の文章を読んでも買ってくれる。 最終的に読者がおすすめしたゲームを買いまくってくれて、好きなゲームが売れて、続編も出まくる世界が究極の理想です。 批評は買わせるだけが目的ではありません。
しかし、ゲームキャストではそういった購買と喜びの連鎖が理想だと思っていて、その理想に近いものがこれでした。 今回はナイスな文ばかりで多くのゲームを買ってしまいました。しかし、その中でもpontaさんの紹介するゲームを、私はまた遊びたい。
live賞:
『Capitalism 2』批評 著/ponta
live(@livedesu)
『ぷよぷよ』JeSU公認ライセンスプロゲーマー。
EVO2018ぷよぷよ部門・スワップ部門で優勝するなど凄まじい戦績を残しながら、ブログ『清濁のるつぼ』にてプロシーンで戦う自身や周囲のプレイヤーの心境を、微細な表現で描く文筆家でもある。
私にとって文章を読む、ということは書き手の意図を理解しようとするコミュニケーションだと捉えています。批評というジャンルにおいてこの選別方法が適切なのかわかりませんが、ノミネートされた作品を読み進める中で「そのゲームを実際にプレイしてみたい」と思わせてくるのはpontaさんの記事でした。
ゲームの良さや深さ、尊さを一方的に語るわけではなく、実際のプレイングをなぞりながら随時要点をまとめていくスタイル。知識がゼロベースであることを前提に、わかりやすさや伝わりやすさをとにかく追求しているように感じます。
たとえ全く知らないゲームでも、何をするのか、どこが魅力なのかが傍で見ているかの如く理解できる。読み手に沿った導線を描いているように思えました。口語調強めでありながらも文章としてまとまっており、彼はまさしく文語的コミュ強なのでありましょう。
批評文に『バーカバーカ』なんて露骨に書いて笑いを誘えるのは、その心理誘導の巧さゆえです。彼の文はいつの間にか読み手を友達にしてしまい、多少の軽口を許してしまう。自身の描いた世界に引き込む力が尋常ではなく、それでいてあっさりとした読後感も与えてくれる。文章に対する技巧をそもそも読み手に悟らせない奥ゆかしさが、日本人らしくてさらに良いのです。
大野真樹賞:
『SEGA AGES バーチャレーシング』批評 著/ハリーハート
大野真樹(@date_maki)
ゲームディベロッパー、株式会社カラメルカラム代表取締役社長。
iOS/Android対応の自分探しタップゲーム『ALTER EGO』をリリースし、配信開始から1ヶ月でインストール数20万を突破。
筋金入りの読書家で、『ALTER EGO』にもそうした読書経験が大きく反映されている。
先日、やよい軒で興味深い話をしている若者ふたり組がいた。興味深い、と言ってもいわゆる下衆な野郎の話で、彼女が5人いるだとか、渋谷で逆ナンされたとかなんとか、モテ自慢みたいなものだ。
確かに、彼らはイケメンだった。ひとりは昭和のジャニーズ風、もうひとりは韓流スターみたいな顔立ちだったと思う。おそらく、大学生くらいだろう。自分が同年代だったら、きっと嫌悪感を覚える会話だったかもしれない。けれど、ひと回りも年齢が違うモテエピソードの数々は、驚くほど新鮮で楽しかった。「え、これタダで聞いていいの? やよい軒で?」と感心するほどに。
そして極めつけは、その若者、ものすごく美味しそうにやよい軒の定食をたべるのだ。「やっぱここの焼き魚うめぇよな」「めっちゃ美味い、最高」とかなんとか、大袈裟という様子でもなくやよい軒の定食を褒めるのだ。これが、決定的だった。
話を聞いた場所がやよい軒じゃなくて居酒屋やバーだったら、間違いなくその若者に一杯奢っていただろう。奢ってやりたい理由は、自分でも上手く言語化できない。ただ、奢ってやりたくなったのだ。そう、この批評に出てくるジャムおじさんは、私のなかにも存在したのだ。
100-200文字程度で良いと言われた批評の選定理由を書きたいだけなのに、現時点で540文字も費やしていることからわかるように、いまだに批評というのがよくわかっていない。一応辞書で「批評」の意味も調べてみたし、今回の企画で選ばれた他の批評にもすべて目は通したけれど、どうもピンと来なかった。批評って、なに? 私って、なに?
私が選んだのは、批評として見ればきっと構成も滅茶苦茶だし、なにを言いたいかも不明瞭だし、最後の方なんかはちょっと自分に酔ってる感じで愉快犯的な文章にも感じた。けどまあ、そういうのもあっていいよね。そもそもこのコメントも相当なものだよね。ジャムおじさんをのぞくとき、ジャムおじさんもまたこちらをのぞいているのだ。ということで、この批評を選ぶことにした。
批評としての良し悪しは自分には判断難しいけれど、【このコースのタイムをあと三秒縮めなければ世界は崩壊してしまう】って設定で遊んだエピソードは良かったと思う。自分の体験に基づいて作品を評価して文章としても読み応えがある、という点では批評としても優れてる気がする。
以上、よくわからない批評に対する、よくわからないコメントでした。
株式会社カラメルカラム 代表取締役社長 大野真樹
谷田優也賞:
『MOTHER2 ギーグの逆襲』批評 著:あめ
谷田優也(@akahossy)
「ゲームが上手い人達が称賛される世界を作る」を掲げて、eSportsイベントの企画・運営、映像制作・配信、世界を目指すプレイヤーの支援・マネジメント、メディアを展開する、ウェルプレイド株式会社代表取締役/CEO。
自身も筋金入りのゲーマーで、『ストリートファイター』では「ザンギエフ」を使い大会でも活躍しているが、同時に幅広く多様なゲームを愛するゲーマーとしての顔も持つ。
いろんな審査員の方がいる中、文字を書くことを専門としていないのですが、 お声がけをいただいたので、精一杯読ませていただきました。 出会った一つのゲームに「愛」と「感謝」これだけ詰めることができるのだなと驚きました。
読み終わったときに、Mother2をやり終わったときのような感覚や、またやらなきゃいけないなと思う感覚に包まれた不思議な気持ちになりました。
平成ベストゲーム100本いや、30本くらいに絞るときにでもほぼ候補に入るであろう 語る必要もない名作中の名作『MOTHER2 ギーグの逆襲』。 その至高のゲームに対して、ここまで愛を語れるものでしょうか。僕にはできないとさえ思いました みんなが面白いゲームを、改めて面白いよねって伝えるのって難しかったと思います。
それでも、この批評にはゲームが与えてくれる感動の原体験から、ゲームシステム、 糸井さんが伝えようとしていた思いまで、あめさんの中で感じ取り最高だと思ったことを すべて伝えきろうという”意思”を感じました。 素晴らしい批評でした!ありがとうございます。
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とりあえず、このブログを5年あまり続けてきて初めて読者参加企画などやったもので、終始グダグダになってしまい申し訳ない。こっちに引っ越してきた時のゴタゴタと相まって、気づけば3ヶ月ほど掛かっていた。
何度も言うように、これほど多くの批評を無償で書いていただいたという事実にまず私は驚きを隠せない。今やゲームに必要なメディアは動画だ。ゲーム実況、ゲームトレーラー、eスポーツ観戦、何でも動画や配信で済んでしまう。そもそも多くのゲーム好きがあまり活字の類を好かないこともあるだろう。
そんな中、私は未練がましくもテキストでゲームを紐解く営みを辞められずにいる。散々、「今は動画の時代」と言われているけど、うるせえワシは文章の方が読み応えがあって好きなんじゃい!と思う。重い愛情、深い熱量、それを表現するには文章に勝る媒体はないと思うし。
とはいえ、それは自分が一人で書き続けていくことには限界がある。だから、ゲーム×テキストの可能性を広げていくための活動は今後ももっとやりたいと考えているし、コミュニティ単位でうまいこと流れを作っていけたりしないかなーと。
ただ今メインの仕事があって、あくまで趣味の範疇でしかブログを運営する自分にとって、中々ここまで手が伸ばせてないのも事実。いや頑張れよって話でしかないんだけど、例えばdiscordの運営なんかもやりたかったけど、全然手が回ってない。生活せなあかんねや……。
とりあえず、次回またゲーム批評祭をまたやりたい気持ちはある。年末ぐらいに「あなたのゲーム・オブ・ザ・イヤーは何?」みたいな感じで。次回は逆に文字数制限を1000字ぐらいにして、逆に応募者は原則全員掲載するとかどうだろうか。
そのうち、ライターのヨッピーさんとか、ゲーキャスのトシさんみたいに独立すればやれることも増えると思うのだが…… うーん、何もかもやりたい!
最後に、ゲストとして審査員を引き受けていただいたゲームキャストさん、liveさん、大野さん。ゲーム批評祭の記事を拡散したり、いいね!してくれた方。何よりも、直接投稿いただけた方。
本当にありがとうございました。皆様のご協力のおかげでこんなに面白いことを実現できたこと、本当に嬉しく思っております。
そして優勝されたslaughtercultさん、本当におめでとうございます。
賞品として
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